韓国軍敗退
「韓国軍は立て直せるか?」
「難しいでしょう」
奇襲を受けたとはいえ、防御に失敗した韓国軍は部隊を立て直せぬまま後退を続けている。
現状、次の防衛適地は、釜山近郊しかない。
「ウォーカー中将でも無理です」
一応、第八軍司令官ウォーカー中将――パットンの一番弟子であり気性も似ている将軍を韓国に派遣して前線視察させ、指揮を命じている。
また九州にいた米陸軍第二四歩兵師団を救援部隊第一陣として――事朝鮮半島への出動を命じている。
「北朝鮮軍などソ連軍の劣化版で、米軍が行けば勝利すると言っている者がいるが」
「それは事実を知らない者の北朝鮮への嘲りです。実際は強力な戦車を有する部隊で非常に有力です。米陸軍でも戦線を維持できるか」
弱気とも思える意見だが情報を精査した身としては分析結果を、北朝鮮軍の戦闘力が強いことを申告しなければならない。
圧倒的な北朝鮮軍の前には、米軍一個師団でも遅滞戦闘が精一杯だろう。
第二四師団で蹴散らせると考える者は多いが、事実上の、撤退援護だ。反撃には増援が必要だが、兵力がない。
さらに問題が出ている。
「反撃には在日米軍を含め日本の軍隊も投入しなければなりません。北朝鮮軍との戦力差が大きいです。ですが李承晩は未だに日本軍が朝鮮半島に上陸することを許しておりません」
「韓国軍が敗走しているのにか?」
「もし日本軍が上陸した場合、韓国軍は北朝鮮軍に背を向け日本軍を迎え撃つと言っております」
「大層な物言いだな。日本に逃げ込もうとしているにもかかわらず、そんなセリフが言えるとは信じられないね」
ソウルを脱出した李承晩は、変わらずラジオで威勢の良いことを言っていた。
亡命政権時代、各国の要人と会って食事をして反日的な演説をするだけだった李承晩に統治能力も戦争遂行能力も無い。
建国後は恐怖による独裁政治でどうにか韓国を纏めていただけだ。
戦争も無理だ。
開戦当初、何をして良いか分からず、威勢の良い演説、韓国軍は勇戦敢闘しており、北の侵略を跳ね返すという演説を繰り返した。
実際は韓国軍は崩壊しており、一部を除き迎撃に失敗していたが、韓国国民は信じてしまい、南へ避難する時間を失った。
ソウル市民が取り残された原因の一つだった。
北朝鮮が迫っていることを、止める手立てがないことを知った李承晩は遷都を発表し、北朝鮮軍から逃れるべく南へ逃げた。
だが、韓国の陥落は免れないと考え、山口に六万人規模の亡命政権用のキャンプ建設を申し入れる有様だ。
済州島に移動しないのは、この島で度々反乱が起きており、李承晩が島民の事を信用していないからだ。そのため弾圧したが、それが反発を受け反感を買い、更に氾濫が起こる悪循環が続いていた。
李承晩が一番安全だと信じているのが、常に攻撃している日本だったのは皮肉だった。
「韓国政府は米軍の増援を水面下で求めていますが」
表向きは韓国軍の精強さを喧伝している李承晩だが、事実は敗退が相次いでおり、劣勢だ。
だが、面子を重視する李承晩は自分の口から言ったことを翻すこと、改めて援軍を求めることは出来ず、米軍の援軍など不要と答えていた。
そのため、米軍が自発的に増援を送る事を期待して、水面下で打診していた。
「朝鮮半島にはこれ以上部隊を送るな。北海道を優先する」
ニミッツが北海道優先、朝鮮放棄を命じたのは李承晩への反感だけではなく戦略的合理性からだ。
もし日本の北海道が北、東側陣営の手に、ソ連の勢力下に入った場合、北海道近隣を通る、北太平洋のアメリカ本土を結ぶ航路が寸断される可能性が高いからだ。
地球は丸いため、最短距離を行こうとすると、丸みに沿って舵を切りながら移動するのが良い。
つまり、西海岸から出たらアリューシャンをかすめ、千島列島沿いに進み、北海道沖から日本へ、そしてアジアへ行くのが最短距離だ。
太平洋の反対側にいるアメリカにとって、工業力を発揮するために補給線は短い方が良い。
朝鮮半島失ってもアメリカからの補給線が確保出来る限り西側はアジアで戦える。
だが日本の、米本土への連絡路が近い北海道を失えば在東アジア米軍の活動が大きく制限される。
結果、西側諸国は継戦能力を失う。
朝鮮半島と北海道、どちらを優先すべきかは、はっきりしていた。
「韓国政府は激しく抗議するでしょうな」
「させておけ、彼らが祖国アメリカの代わりに弾薬を、極東全域に配れるだけの弾薬を提供したなら考えなくもないが、不可能だ」
当然の帰結だった。
口先だけで、唱えてみても実がなければ物事は成就しない。
いや、正しい方針であっても相手の思わぬ抵抗で大崩壊する事がある。
前の戦争でニミッツは、嫌というほど知らされていた。
だが、最低でも戦える様に、物資を途切れなく供給出来る態勢を整えておけば、負けてもまた戦える。
極東連合軍司令官として、兵站線の確保は最優先事項、朝鮮半島を捨ててもやり遂げる必要があると判断していた。
「中国の方はどうだ」
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