終戦直後の情勢
八月一五日、日本は国体護持、天皇制の尊重を条件に連合国に降伏した。
連合軍はこれまでの激戦から日本軍の抵抗を予想したが、玉音放送と天皇の呼びかけ、各方面軍へ皇族を派遣し天皇の意志、降伏を伝えたため日本軍は降伏に応じた。
しかし、全てが迅速に行われたわけではない。
パナマ運河の奇襲と破壊により米軍の行動力は著しく制限されていた。
特に大部隊の移動と維持、そのための物資を運ぶ船舶が足りなかった。
米軍は動くに動けない状況となっていたが、それを見越したソ連が大陸と半島になだれ込んでおり、これを早急に掣肘する――武力を背景にソ連軍に先んじて要衝を抑える必要が出てきた。
それを可能にしたのが日本海軍残存艦艇だった。
生き残った旧日本海軍艦艇はすぐに沖縄に集結。
沖縄にいる米軍将兵を乗せると、大陸各地、特にソ連軍の侵攻先へ行き、既に占領されていた遼東半島と天津周辺を除く主要港をソ連軍より先に制圧する事に成功。
大陸の内陸部に関しても、日本軍の航空機と基地施設を使い米軍の部隊が輸送機で迅速に移動し要衝、特に大河の橋梁をソ連軍より早く制圧した。
パナマ運河が破壊されて兵站は混乱していたが、手持ちの物資と、日本の生産力を活用してどうにか部隊の維持に成功。
部隊を展開する余裕を得て、アジア各地に米軍は部隊を派遣した。
これにより米軍はソ連の南下を防いだ。
行く手を塞がれたスターリンは、これを米国の裏切りだと非難した。
だが、米軍は日本軍の迅速な撤退と武装解除に必要という立場を主張し、聞き入れなかった。
ソ連もそれ以上の行動はしなかった。
原爆を前に、稚内近郊に落とされた日本の原爆――米軍より奪った原爆によって北海道に侵攻したソ連軍将兵が壊滅的な打撃を受けた事をスターリンは思い出した。
被害が大きすぎて、ソ連軍は名寄北方で止まらざるを得なかった事を思い出し、それ以上の抗議は行わなかった。
ここで米軍と開戦すれば原爆の大量投下によってソ連軍将兵に甚大な被害をもたらす。
一万メートルを飛ぶB29を迎撃出来る機体や防空システムなどソ連にはない。
パナマ運河が麻痺している米軍でも数機のB29を運用可能。降伏した日本を使えばソ連軍を叩く事が出来る。
しかも、手を組んだ日本軍と団結されたら、独ソ戦で疲弊したソ連に勝ち目はない。
以上のようにスターリンは考えていた。
当時のアメリカでも原爆製造のインフラと原料、生産ラインの問題で原爆製造は月に一発か二発が限度だった。
到底原爆のみでソ連全土を壊滅させるには至らず対ソ連開戦を躊躇していた。
スターリンの考えは杞憂だった。
しかし、正確な情報を得られないスターリンは慎重な性格――暴君というイメージがあるが、派手に行動するのは自分が傷つかないことを確証してからか、反逆される前に反逆する恐れのある者を含めて処刑するため――から原爆大量投下を恐れ、抗議しなかった。
またシベリア鉄道も、日本軍の奇襲により破壊されており極東への戦力輸送に支障を来していた。
極東に駐留するソ連軍を支える物資を送り込む事が出来ずにいた。
この点は満州国が物資の販売を行ったことで解消したが、貴重な外貨を満州国に渡すことになり、スターリンを歯がみさせた。
占領しようにも、ソ連侵攻時に見せたねばり強い満州国の軍備は優秀であり短期間の内に占領するのは不可能。
また、大陸各地に派遣したソ連軍が孤立し全滅する可能性が高く、スターリンは渋々、満州国に正統な――共産圏から見たら高額な価格で購入する事となった。
それでも満州を手に入れ、中国に渡さず、気が抜けないが親ソ連国にしたのは大きかった。
中国も毛沢東の勢力を拡大させる事に成功。
半島は北朝鮮の獲得と独立に成功。
南樺太と北海道北部を得ることにも成功。
共産陣営、ソ連は十分な成果を得る事に成功し、東アジアに無視できない共産主義勢力を作り上げた。
以上の様な理由からスターリンは当面、第二次大戦の傷を癒やすために国力を回復するためアメリカと手を握ることにした。
かくして表面的には勝利したアメリカだが、日本に対する借りが出来てしまい、強く内政に口出しする事は出来なかった。
特に南方の日本軍を速やかに復員させるのに、日本海軍の艦艇は必要だったし、ソ連と対抗する為にも日本の軍備が必要だった。
特に中国は、共産党との戦いに備えて国民党軍を増強する必要があったが、腐敗の激しい国民党軍では戦力にならず、旧日本軍の支援が必要だった。
このような混乱が発生した理由は一つの呆れるような事実によって生み出された。
東アジアの統治に必要な計画も知識も、米軍および米政府は持っていなかった。
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