特車第十一大隊
『名寄北方の警戒線を機甲部隊を含む敵が突破! 特車第十一大隊出撃せよ!』
駐屯地に鳴り響く命令を聞いて飛び出した。
操縦士も例外ではない。
装備を身につけ、持ち込むものを確認。
正規の装備品もそうだが、高下駄とハンマーも忘れてはいけない。
M4シャーマンの操縦席ハッチを開けてに入ると、数枚の座布団を敷いた席に座り、下駄を脚にしっかりと結び、ハンマーを定位置へ。
アメリカ人には狭いと言われるM4だが、小柄な日本人には広く、旧軍出身者からは好評だ。
操縦士を除いて。
アメリカ人の体格に合わせて作られたため、フットバーが遠く、高下駄を履かないと脚が届かない。
座布団を重ねて座っているとさらに遠い。
なら座布団を外せば良いのだが、そうもいかない。
潜望鏡――外周を見るために戦車の天井に付けられたペリスコープなど、高い位置にあるため、座席に座布団を重ねておかないと潜望鏡に届かず外が見えない。
座る位置が決まると操縦士はエンジンを回して始動し安定させる。
高下駄を通じてアクセルを操作する。
ミッションのレバーも確認するが固い。持っていたハンマーで叩いて入れ込む。
このような事があるので高下駄とハンマーは必需品だ。
「失礼します!」
エンジンを暖めていると外から威勢の良い声が聞こえた。
「跨乗歩兵を命じられた普通科第四連隊第二中隊の第三小隊であります! 中隊本体はトラックで追随します」
「了解した。 揺れるからしっかり捕まっていてくれ」
「ありがとうございます、歩くより遙かにマシですから」
彼らはシャーマンの車体に乗り込みしがみついた。
この間に、水温計が上昇し暖気は完了する。
「発進準備良し!」
「前進!」
車長、隊長の命令でクラッチを入れ前進する。自分の戦車が先頭だ。
先発の偵察隊として一個小隊五両で向かう。
戦訓と米軍ドクトリンとの兼ね合いから五両で一個小隊、三個小隊と本部二両で中隊、三個中隊と偵察小隊、及び本部二両で編成されている。
先に偵察が出ているはずだが、敵の侵攻が速く、早期に遭遇戦が予想される。
迅速に進出して敵の頭を抑えたかった。
『伊賀より士魂! 伊賀より士魂!』
無線通信が入った。伊賀は第二師団の偵察隊だ。
彼等は先発して敵情報告を行う部隊であり、後続に敵の情報を教えてくれる。
「こちら士魂11! 伊賀応答されたし!」
『天王山乙にて敵戦車三十両を発見! 南に向かって前進中!』
予め、主要な地点は符号が決めてある。
天王山はここから数キロ先の高地だ。北に向かう道、敵がやってくる道が西へ回り込んでいる。
ここの高地を取れるかどうかで作戦の成否は決まる。
車長兼小隊長は、一分ほど考え込んで命じた。
「普通科はここに一個小隊置いて陣地構築、一個小隊は道路沿いに西に行き、陣地を構築し伏撃待機。敵が接近したら連絡、戦闘の判断は任せる。操縦士、東へ向かえ」
「了解!」
道から外れて天王山の東側、道路とは違う方向から進入し、敵を待ち伏せを選択したようだ。
予め想定されている戦場は日頃から歩いて確認しており、何処へでも行ける。
夜道を急いで行く。
ここ数日は雨も降っていないので地面は固く、戦車が通れるのは確認済みだ。
「ここで伏撃待機する。普通科は降りて陣地構築。戦車は更に前進して、擬装せよ」
普通科、かつての歩兵に予備陣地を作らせている。
後退できる余地を作り、遅滞戦闘で長く踏ん張るつもりか。
命令通り、前進して高地を避ける為、西へ道路がカーブしている場所の東に陣地を作る。
隊長車は最右翼に敵に近いところへ。
最左翼は戦前から戦車兵であった古参の曹長、今は一等警備士補に任せている。
『伊賀より士魂11。間もなく来るぞ』
「了解」
敵部隊がいよいよ近づいてきた。
息を潜めて待機する。
現れた。
星明かりの下、古びたジープ数台がやってくる。
大戦中ソ連に供与されたレンドリースの生き残りだろう。
「攻撃するな! やり過ごせ!」
隊長が改めて指揮下の戦車に伝える。
歩兵、いや今は普通科か、彼らが対応出来る程度なら放っておく。
「我々の敵は戦車だ」
勿論だ。
戦車の相手は戦車だけだ。
歩兵を踏み潰すのも良いが、主砲で敵の装甲を食い破ってこそだ。
「敵戦車接近!」
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