極東戦争 最初の空戦
「! 前方に敵機だ!」
見つけた機体の種類を確認した松本は苦々しい思いで叫ぶ。
飛んで来ているのは五式戦だ。
かつて自分も乗っていた機体であり、良い機体だ。
マスタングとも戦えるだけの性能を持っており、一緒に飛んでいるだけで心強かった。
だが、向かってくる五式戦の機体に描かれているのは日の丸ではなく、赤い星だ。
満州国に残っていた旧陸軍戦闘機の工場で再生産して北日本に提供し、赤い星を付けている。
部品も燃料も揃っているため、手強い敵だ。
当初、連中にはソ連から大戦終結で余ったYakを提供される予定だった。
だが、低性能すぎて意味がないと満州も北日本も断った機体だと聞いている。
有り難く貰ったのは毛沢東の北中国と金日成の北朝鮮だけだ。
彼らが五式戦の導入を拒否し、ソ連の機体を受け取ったのは代金が無料か有料かの違いだけ。
しかし、北日本は真っ当な判断を下した。
大戦末期、P51と互角に戦えた五式戦を選択するなら妥当な判断だ。
ゼロ戦より小さく、性能が旋回性能を除いて低いYakなどP51のカモだ。
だが、自分たちの敵は五式戦の改良型を選ぶなど真っ当すぎる判断が出来る優秀な連中だ。
出来れば戦いたくない。
しかし、戦場となれば自分の敵で出会った敵と戦うしかない。
厄介な敵でろうと。
「戦闘開始! 巴戦に入ろうとするなよ! 一撃離脱を繰り返せ!」
松本は僚機に指示して高度を上げる。
運動性は五式戦の方が上だ。
スピードを生かして一撃離脱に徹しないとP51は危険だ。
上を取ることに成功した松本は反転して五式戦、敵機を攻撃する。
だが、攻撃前に周囲を、太陽の中を念入りに確認する。
「他に敵機はいないな」
援護の機体がいない事を確認して攻撃する。
翼に命中して火を吹いて落ちて行く。
「一機撃墜」
松本は周囲を見渡して、危機に陥っている味方がいないか確認した後、周囲を確認する。
「今のところ優勢、敵機も五式戦だけか」
幸い、ジェット機は北日本に送り込まれたという情報は入っていない。
橘花や米軍のジェット機と模擬空戦をした事があるが、マスダンクよりスピードが速く、存在するだけで危険だ。
橘花を使えれば、と思うがエンジンの信頼性が低く一〇〇時間で耐用時間を超えてしまうので実戦的ではない。
アメリカはジェット戦闘機の開発に成功しているが、生産数が少なく日本に配備されていない。
ソ連軍は装備している、それも極東にも送っているという情報が入ってきているのに危険すぎる。
この戦場に現れないことを祈るだけだ。
「腕は、同じくらいか」
機体の扱い方からして、此方と同等だろう。
向こうも実戦経験があるが、新米がいる。彼らを庇うことを考えると難しいと言うところか。
「ソ連軍がいない分、互角か」
機数も質も同じくらいなら互角に戦えるだろう。
ただ、地上支援に関しては制空権を獲得しなければ無理だ。
背後を気にしながら地上すれすれを飛ぶなど自殺行為だ。
相手も地上援護出来ないだろうが。
「地上は地上部隊に任せるしかないな」
不甲斐ないが、致し方のないことだ。
せめて、上空から敵の空爆を受けないことを感謝して欲しい。
圧倒的な敵地上部隊に対し激戦を繰り広げる彼らにとって、航空支援がないことがどれほど危険で、心細いか陸軍出身故に松本は知っている。
だが、自分たちが生き残るので精一杯であるのが現実であり今、置かれた状況だ。
「せめて敵の空襲を防いだことを理解して欲しいな」
感謝まで求めるのは傲慢だ。
彼らにとって感謝するべき相手は、自分たちの敵、自分たちを殺しに来る、敵歩兵であり、敵戦車だ。
時たま飛行機が来て襲撃してくるすぐに帰るので特に問題ない。
しかし、敵歩兵や戦車は居座り続けるので危険だ。
それを吹き飛ばしてくれる爆撃機こそ、彼らの味方であり感謝の対象だ。
敵戦闘機を撃墜する戦闘機など遊んでいるようにしか見えないだろう。
「まあ、こっちはやるだけのことをやるだけだ」
松本は星の付いた機体に狙いを定め、ブローニングを叩き込んだ。
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