佐久田達の計画の真相
沖縄本島嘉手納海岸で擱座した大和では、米上陸部隊との間で交流が行われていた。
まだ正式な停戦は先だが、いずれ正式な物になると両軍ともに考えていた。
双方が分け隔て無く生存者を救助したことも大きかった。特に涼月は艦首部が浸水し沈没寸前だった。
沈まなかったのは、一番下の弾庫を避難した三人の兵員が自ら密閉し浸水を防ぎ、浮力を保ったからだ。
もし、米軍の協力がなければ、あと一時間で三人は酸欠で死亡しただろうと言われている。
この事もあり、日米両軍の間には和解したような雰囲気が流れていた。
それに互いに不足する物資を融通し合わなければならない。
特に米軍は橋頭堡を艦砲射撃で破壊されていた。
焼き出された物資は何とか使えたが、装備、給食装備は無きに等しい。
そのため、大和などの座礁した艦艇の生き残っている調理施設で調理して提供することになった。
当初こそ警戒していたが、日にちが経つと、双方理解し合い、兵員同士での物品交換なども行われるようになった。
そんな中、ニミッツが佐久田の元へ訪れた。
ただ訪れたニミッツの顔は不機嫌なものだった。
「何か問題でも」
「本日は小官が必要な権限を与えられており、日本国政府と交渉したい」
ニミッツの言葉に佐久田は驚いた。
「待ってください。自分にはそのような権限はありません」
先日のニミッツの言葉を佐久田はそのまま返した。
連合艦隊司令長官の代理権限はあるが日本政府は別だ。
二一世紀の日本で言えば自衛隊のトップが政府の承認なしに勝手に外国と外交交渉するようなものだ。
「それならば、日本国政府から承諾を得ているという話を聞いているが」
「まさか」
否定しようとした時、通信兵が電文を持ってきた。
鈴木貫太郎総理から、佐久田に交渉の全権を与えるという内容だった。
「まさか」
嘘かと思えたが、確認しても返事は同じだった。
「仕方ないか」
佐久田はニミッツと交渉の席に着くことを承諾した。
「それで、日本は降伏していただけるのですか」
「国体が護持されるのであれば」
単刀直入なニミッツの質問に佐久田は明確に答えた。しかし、ニミッツは渋い顔をして条件を付ける。
「天皇制の維持は認める。ただ軍国主義の徹底した排除は行う」
「承諾します。しかし、責任者の排除は日本の手で行いたい」
「処罰は連合軍で行いたいが、それはあとにしよう。重要なのは、この後だ」
「どちらに降伏するか、アメリカか、ソ連か」
「そうだ」
ニミッツは佐久田の問いに頷いた。
「アメリカに降伏します」
当然の選択だった。
スターリンが独裁を敷くソ連に降伏するなど悪夢だ。
覇権主義とはいえ、民主主義で決定の過程が比較透明なアメリカが良い。
それに、アメリカも日本も海洋国家であり、世界中の海を行き来したい、という意味で利益は一致している。
そのために降伏したのだ。
「結構だ。だが、困った事に我々は船の数が足りない。特に大陸へ向かう船が足りない。パナマが君たちに破壊されたからね」
「ならば、連合艦隊の艦艇を使って米軍兵を送りましょう。我々としても友軍がソ連軍に捕らわれるのは不本意です」
「満州国がソ連に寝返ったが」
「だからこそ、素早く行動しなくては」
白々しい空気が流れたが、二人はすぐに交渉を再開した。
「ありがとう。早速部隊を乗せて移動させてくれ、航空機の使用も、航空基地の使用も許可してくれ」
「勿論です」
ようやく、ここまでこぎ着けた。
日米講和をもたらすために、この瞬間の為に佐久田は全て計画した。
日本の敗戦は免れない。
ならば、敗北の後、日本を維持するには、その確約をいかにアメリカから取り付けるにはどうすれば良いか。
日本がアメリカにとって重要な国になる事。
それだけだ。
その点を考えて計画した。
戦争に勝利した後の世界はどうなるか。
米ソの対立状態となるだろう。
その中で日本が生き残るには、アメリカ側に付いてソ連に対抗できる有力な同盟国として振る舞うことだ。
ソ連側に付くことも考えたが、ダメだ。
ソ連は独裁国家である上に、大陸国家。海洋国家である日本とは違う。
世界中の資源に船舶でアクセスできるアメリカの方が良い。
ではアメリカが日本と手を結びたいと考えるのはどういう状況か?
ソ連が勢力を拡大し、それを阻止する力がない状況を作る事だ。
そのために、一連の計画を佐久田は高木と立てた。
沖縄戦で米軍を張り付け失血を強いると同時に動けなくする。
ソ連の参戦があり得るなら参戦させ満州国が寝返り、中国大陸へソ連軍を送り込む。
中国市場を狙っていたアメリカにとってライバルのソ連に奪われるのは危機的状況だ。
そして、いずれ敵になる事は分かっている。
しかし、沖縄戦で動けない。そこへパナマが破壊されて物資が送り込めない、東アジアへ大軍を展開できない状況へ持ち込み、日本の助力が必要になるようにする。
またワシントンを空襲し日本の実力を示す。
しかも空襲を行った潜水艦と航空機がソ連の手に渡るように手配し、戦後のアメリカがソ連の脅威にさらされるようにする。
そうやって日本の価値を上げていった。
アメリカは日本と講和してソ連と対抗せざるを得ない状況へ、戦後を考えれば日本と講和するのが良い、という地点へ持ち込んだのだ。
今回の休戦も、ソ連に、スターリンにアメリカが信用に足る国であるかどうか疑問を持たせるために行った。
それらがプラスに働いてくれた。
こうして日米講和が叶ったのは、佐久田の計画が、高木とともに計画した目論見が達成された証だった。
しかし、予想外の延長戦が待っていた。
「あと、もう一つ、条件がある」
「何でしょう」
「日本が手に入れた我が軍の原爆のことだ」
「講和後、返還しますが」
「いや、今すぐ使用して貰いたい。日本軍が自らの手でだ」
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