ソ連の華北侵攻に対するアメリカの対処

「なんということだ」


 満州国降伏が発表された数日後、正確な報告を聞いたトルーマンは、困惑を深め、頭を抱えた。

 ソ連の素早い動き、満州国の承認と降伏そしてソ連軍の満州国内の移動許可。

 これによってソ連は華北への侵攻、占領地を拡大。

 アメリカにとって悪夢といえる。

 戦後、アメリカの市場となるべき中国を奪われるのは非常に拙い。

 復興計画が台無しになるし、ソ連の勢力が、共産陣営が力が増すことは避けたい。

 アメリカの東アジア戦略は根底から見直す必要が出てきた。

 しかもソ連が進撃しているのは中国だけではない。


「樺太は勿論、千島と北海道北部への侵攻を行っております」


 樺太は地続きのため侵攻が行われるのは明らかだった。

 しかし、北海道への進撃は予想外だ。

 だが、北海道、その先の太平洋への道をソ連、いやロシアは強く望んでいた。

 そのために強引に多数の商船を北極航路周りで送り込んだ。

 無理な航海のため、半数が事故で沈み、無事に到着しても出港できなくなったが、残り半数でも十分と考えたソ連軍は実行した

 渡海手段を確保したソ連軍は、開戦と同時に北海道への渡海侵攻を行っていた。

 通常なら連合艦隊によって撃破されるだろうが、沖縄に集まっていたため、守備兵力は殆ど無く、虚を突かれた形だ。


「日本軍も拙いと考え、横須賀に残っている戦艦を中心とする艦艇群を送るようですが、間に合うかどうか」


 硫黄島や沖縄を例にするまでもなく、日本軍は激しく抵抗するだろう。

 だが、上陸したソ連軍は意地でも降伏しないし徹底的に守るだろう。

 守り抜いて占領しつづけ既成事実をでちあげるつもりだ。

 ソ連が北海道を手に入れられるのは拙い。

 トルーマンは最近知ったことだが、北海道と千島はアメリカからアジアへ行く時、最短コース上にあり、世界戦略上、非常に重要な土地だ。

 とてもソ連に引き渡すわけにはいかない。

 ヤルタでは北海道一部占領を認めたが、こうなってはヨーロッパでの約束違反や、満州国との単独講和を理由に破棄するべきだろう。

 その前に、ソ連の進撃、勢力拡大を防がなければならない

 しかし、それには力を見せつけなければ、ソ連は、ロシアは力が無い人間を交渉相手とは見なさない。

 だが、アメリカの力の源泉である米軍は現状動くことが出来ない。

 ならば、動けるようにする必要がある。

 しかし、その手段は使いたくない。だが使わなければ動けない。

 トルーマンは決断した。


「直ちに、日本と講和する」


 日本がアメリカと手を結ぶというのなら、ソ連と対抗できるのなら講和して手を結ぶのも良い。


「日本が求める天皇制の存続は」


「日本の条件は承諾する」


「閣下」


 大統領の決断にグルー国務長官は、涙が出た。


「だが、此方の条件ものんで貰う」


「条件ですと」


「此方が条件を承諾したんだ向こうも承諾して貰うぞ」


 続く大統領の言葉にグルーは背筋が凍った。

 そして禄でもない内容に、グルーは焦る。


「それは過酷すぎます」


「日本にそれだけの覚悟があるかどうか確認する。満州国の例もあるからな、ソ連に原爆付きで寝返られては困る」


「しかし、そのような交渉を行う時間も、余裕も」


「前線で行えば良いだろう。好都合な事に、太平洋艦隊司令長官と代理だが向こうの海軍部隊の指揮官がいる。沖縄で交渉しろ。陸軍もいるのだ。纏まればすぐに動けるだろう」


「そうですが」


「やらせるんだ。これは大統領命令だ」

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