スターリンとの契約

「勿論、有効です。ですが私、いえ我が国、満州国の存続を認めていただけますか」


 北山は、スターリンにハッキリと答えた。

 苦虫を噛みつぶすような表情をスターリンは受け入れたが、すぐに諦めて答えた。


「よいだろう」


 沖縄での日米の休戦がスターリンの計画に大きな影を落としていた。

 日本降伏まで戦争は続くと考え、その間に満州を、朝鮮半島を、中国大陸を共産陣営で塗り固められる。

 しかし、それは戦争中だからこそ許される事だ。

 日本が降伏すれば、戦争は終わり、要地確保の名目での勢力拡大は不可能だ。

 終わっても難癖を付けてソ連軍を進軍させるが長い時間は無理だ。

 沖縄での休戦は、日本の降伏が近い証拠だ。

 しかも、これまで休戦してこなかった日米が手を結んだということは、日米が連合する可能性も高い。

 パナマ運河が使用不能でアメリカが東アジアに大きな戦力を投入出来ないとしても、米軍が日本軍と協力したら脅威、戦争となったら勝てないかもしれない。

 ならば確実に勢力圏を広げられる手段をとるのみ、満州国との契約を締結し独立を認めつつ裏切らせ、領土通過を認めさせることだ。

 以上の理由から、スターリンは僅かな時間で出来るだけ多くの果実を得ようと北山と手を、渋々結ぶ事にした。


「しかし、そちらも守ってくれるのだろうな」


「正式な外交文書を書き上げ、タス通信で宣言され次第、満鉄によるソ連軍の輸送を行います。国内通過が出来るよう、既に満鉄への手配は出来ております」


「よし、契約成立だ。直ちに行おう。満州国はソ連が買った」


「ありがとうございます。しかし、途中下車は禁止ですよ。必要以上に満州国に部隊を下ろすのは、協定違反です」


「……わかっている。ソ連は約束を守るし、書記長として約束は違えないと確約しよう」


 スターリンは不機嫌に北山と握手をすると、すぐさま満州国の独立及び降伏承認と満州国内をソ連軍が移動出来る協定にサインをした。

 こうして満州国はソ連に認められる、独立と降伏――かなりの条件付きであり、独立を維持した上、占領は最小限、満州の共産陣営への加入が承認される。

 代わりに満州国はソ連軍の国内移動を許した。

 タス通信がこのことを発表すると、事態は電光石火の如く動いた。

現地では手早くスターリンの命令と、満州国軍司令部経由で北山の指示が届き、すぐに停戦協定が成立。

 同時に満州国軍による関東軍制圧作戦が開始され、関東軍は満州国軍の捕虜となった。

 もっとも、関東軍の殆どは本土防衛の為に大半が移動していたし、残りも避難民を連れて朝鮮半島から本土へ逃げ込もうと必死だった。

 そのため、大きな抵抗はなく制圧に成功。

 満州国軍は彼らに危害を加えることなく、列車を使って朝鮮半島の港へ送還した。

 その後から、満鉄が用意した列車にソ連軍が戦車と共に乗り込み、中国北部へ向かって移動していく。

 だが、この移動は満州国軍に監視されてのことだった。

 一応、各都市にはソ連軍が駐留することになっていたが、殆どは捕らえられた空挺部隊員。

 丁寧に武装解除、格好を付けるために拳銃と少数の小銃のみ与えられた状態だった。

 予め準備されていたこともありソ連軍はあっというまに万里の長城を超えて、華北へ運ばれた。

 満州国国境を越えて列車から下ろされた赤軍は再び進撃を再開。

 日本軍の占領地域を制圧していった。

 支那方面軍は、予想外の事態、満州国の降伏と領土通過を許されたソ連軍の華北からの侵攻にに対応出来ず、上海に向かって撤退するしかないかった。

 そのため、ソ連軍は無人の荒野を進むが如く順調に進撃し、北京をはじめとする中国北部を制圧し占領地を増やしていった。


「進撃を続けよ! 停止は許さん!」


 スターリンはソ連軍に厳命した。

 反転して満州国を占領する事など考えていない。

 あとでどうにでもなる、と考えていたからだ。

 今は、アメリカ軍より先に中国大陸を占領する事が先だ。

 アメリカは沖縄で膠着状態に陥っており、行動不能。

 今すぐ動かせる兵力など無い。

 米軍が動けない間にソ連がどれだけ領土を、勢力圏を広げるかが戦後、今後の戦争での大きな鍵となるからだ。

 だからソ連軍はひたすら中国大陸を南下していった。

 この事態に、アメリカは狼狽える事となる。

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