米ソの内部文書

 国務長官宛て太平洋における安全保障に関する国防総省ワーキンググループ報告。


 現在合衆国の仮想敵はソ連である。

 ソ連の極東における活動は広大な領域に比べ著しく低い。

 これは、領域の大半がツンドラに位置するためで、主要交通路がソ連南端のシベリア鉄道もしくは黒海からスエズ運河を経由しインド洋を越えてシナ海を北上する航路でもオホーツク周辺までしか到達できないためである。

 しかし、ソ連が極東に作り上げた満州国をはじめとする衛星国、同盟国は根拠地となっており恐るべき力を付けつつある。

 特に満州国と北日本は旧日本軍及び旧日本帝国政府の遺産を十全に活用し、強力な海軍を含む部隊を編成、運用している。

 戦後の米海軍の戦力は圧倒的であるが、終戦直後の大潰走と表現されるほどの大規模な軍備削減、大戦時より一四分の一に縮小されたため、ソ連とその同盟軍の戦力を圧倒する程の戦力は確保されていない。

 以上の状況を踏まえ、我がグループは提言する。


 1.アラスカから始まるアリューシャン、千島、北海道太平洋岸、日本本土、対馬、南西諸島、台湾、フィリピンに至る線に防衛線を建設。

 2.占領中の日本を含む友好国の軍備創設及び育成による、米軍の肩代わり。

 3.旧日本軍の戦力の活用。


 これは防衛線の内側、太平洋を我が合衆国の海としシーレーンを確保、ソ連の攻撃から守るためである。

 ソ連との戦いは長期戦となる。そのためには必要な大量の物資を運ぶ必要があり船舶輸送が最も適しており、極東への米本土からの最適な航路は北太平洋しかない。

 そこで北太平洋のシーレーンを守るための防衛線が必要である。

 勿論、防衛線の外側にある北海道、韓国、中華民国は合衆国の同盟国であり、防衛線の構築は彼らを見捨てる事を意味しない。

 むしろ彼らを支える他ための防衛線構築である。

 彼らを現実的に支えるには援助、非常時には援軍が必要であり、それらを輸送するためには祖国アメリカが太平洋を安全に使用できることが、特に最短航路である北太平洋を使えることが絶対的に不可欠である。

 以上のことからアメリカ西海岸より発しアリューシャン列島沿いの北太平洋から東アジアへ至る防衛線構築を提言する。

 だがアジアは広大でありアメリカ軍が全てを守る事は出来ない。

 そこで、各国に軍隊を創設し自国の防衛を任せる。

 勿論、東側の攻撃、特に強大なソ連の支援があった場合、一国で対応することは不可能。

 その時は、米軍が介入し、守る。

 これにより平時は最小限の兵力を配置するだけで、縮小した軍隊でも十分に守れると考えられ、戦時となれば迅速に部隊を前線に送り増強することが出来る。

 この事からも部隊の増援路である北太平洋の航路は保全されなければならない。

 しかし、戦力が激減した合衆国軍が全てを、アジアのみさえ必要な兵力を配備することは出来ない。

 世界の勝者となったアメリカは世界中で行動できるが、世界中から求められている。

 アジアのみに兵力を貼り付けることは出来ず、兵力が足りない。

 そこで旧日本軍の戦力活用を行う。

 日本列島には極東において最良の港湾施設、特に大規模ドックと工廠が建設されており、大規模艦隊の運用能力、支援能力を持っている。

 広大な沿岸防衛に必要な艦艇の建造、整備、修繕が出来ることから我が自由陣営の一大根拠地、有力な同盟国になることは間違いない。

 平時においても太平洋を渡ることなく、艦船の修繕を行えることは艦隊の運用効率向上には不可欠である。

 大戦での大きな損害を旧日本海軍は合衆国に与えたため、再び敵対しないか不安に思う国民や議員が多いことは理解する。

 だが、これは彼らの能力が大きいことを証明するものである。

 そして、縮小したとはいえ旧日本海軍の人員を使えば、先の大戦で激戦を生き残った彼らを使えば軍隊創設に必要な時間を大幅に短縮し、即時の戦力化が出来る。

 反対派の声が大きいが同じような艦隊が北日本及び満州国にて建設されている事を考えれば十分な脅威であり、合衆国も同様の方法をとるべきである。

 以上の提言が実現すればアメリカの負担は大きく減り、ソ連の封じ込めはより完璧になると報告するものである。


 注意:

 防衛線は絶対防衛線であり、報告書にあるとおり防衛線外側の放棄を意味せず、むしろシーレーン防衛、特に船舶の安全性確保のため、防衛線より北側の領域を保持する。

 特に縦深確保とソ連の封じ込めの観点から、防衛線の北側、友好国の領域防衛は絶対に必要であり封じ込めを完璧にするためにも現状維持だけでなく、領域の拡大が必要である。

 繰り返すが、この報告は中華民国、韓国、北海道北部の放棄を意味しておらず、これらの防衛を更に完璧にし、場合によっては更に共産圏に踏み込むための土台となる。

 このことを関係各所には誤解せず、正しく認識してもらえるよう注意されたし。




 同志スターリン、南の傀儡政権は、民心を失っている。

 統治能力の無い李承晩の度重なる失政により不満が生じており、反乱も起きている。今、正統なる朝鮮軍が南へ進撃すれば、南の人民は諸手を挙げて歓迎するだろう。

 この好機を逃してはならない。

 同志スターリンはアメリカの介入を恐れているようだが朝鮮半島のみならず日本と中国で同時に武力統一を行えば、例えアメリカでも手が足りず、容易に短期間で制圧し、アメリカが介入する前に統一することが出来る。

 統一後は、アメリカに介入の口実はなくなり、東アジアから撤退するすることになる。

 東アジアは共産陣営が大半を占め、偉大なる勝利をもたらすでしょう。

 ソ連の軍事援助と、満州国からの物資援助があれば、南進は達成できます。

 繰り返しますが、決して好機を逃してはなりません。


 親愛を込めて金日成より同志スターリンへ




 ワシントン発 ロイター電

 アチソン国務長官は、ワシントンの国務省プレスクラブで「アメリカの西太平洋における防衛線は、アリューシャンを端に発し千島、北海道南部、日本列島、沖縄、フィリピンを通るラインの軍事防衛に責任を持つ。それ以外の地域は責任を持たない」と発言した。

 朝鮮半島と中国大陸が入っていないことから、アメリカの後退と受け止められているが、韓国及び南中国が日本と違い独立国家であり、自国の防衛は第一にその国の力で行うべきだというアメリカの考えに過ぎないという見方もある。

 しかし、アチソン長官は何も答えず、この見方が正しいかどうかは不明なままだ。

 アメリカは最近、中国への不介入を宣言するなどアジアへの注力が下がっており、影響力の低下、特に力の空白地帯が生まれ、ソ連および共産主義国の暴発が起きないか不安視される。




 同志書記長、1950年1月の米帝国務長官アチソンの発言は米国の後退を示す重要な発言です。

 米帝は強大な国家ですが、彼らでも地球上の全てに戦力を投入できず、世界への関与を縮小しようと考えています。

 これは共産主義を拡大する好機なのです。

 彼らの防衛線の外側、南中国、北海道、朝鮮半島を我が共産陣営が手に入れることが出来るのです。

 ですので北中国、北朝鮮、北日本が出した作戦案を了承し強力に支援するべきと進言します。

 彼らが合衆国の防衛線にまで肉薄すれば我がソ連領土より遙かに外側に資本主義者を押しのけることが出来、米帝資本主義内側の同志共産主義者を受け入れる事が出来るからです。

 何より、我がソ連が直接合衆国に手を出さずその同盟国と拠点を奪うことが出来ます。

 迅速に発動されるよう願います。


 KGB議長 ベリア

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