満州国降伏、共産陣営加入

「なに!」


 ソ連が満州国を承認し降伏を認めたと聞いて、トルーマンは驚きのあまり席から立ち上がった。

 善戦していたにもかかわらず降伏など、日本に忠実な傀儡国家、中枢を日本に抑えられていただけに日本を裏切って降伏するなど驚くべき事だ。

 だが、凶報はまだ続く。


「満州国はソ連に組みすることを宣言。ソ連軍の鉄道を使った領内通過を認めました」


「どういうことだ!」


「ソ連は、満州国の降伏を認める代わりに、共産圏、ソ連の支配下に入るように密約をしていたのでしょう」


 国務長官に昇格したばかりのグルーが、事態を分析し伝える。


「グルーこの後どうなる」


「防壁となっていた満州がソ連に下り、通行可能となった今、ソ連軍は中国北部へ侵攻するでしょう。東アジアの大陸部分は侵攻されソ連の支配下に入ります」


「中国には日本軍がいるだろう」


「多くが本土防衛のために撤退しています。現地政府の軍がいますが、ソ連軍相手にどれだけ戦えるか。いや戦わず、満州国のように降伏する事も考えられます」


「つまり」


「アメリカは中国大陸に殆ど勢力を得られません。中国はソ連に奪われ共産主義陣営になるでしょう」


「蒋介石がいるだろう。中国は蒋介石の領分であり、我々と同じ連合国だ」


「スターリンが、占領した領土を大人しく蒋介石に渡すとは思えません。渡すとしても同じ共産主義の毛沢東でしょう」


 東欧でのソ連の行動、現地にソ連軍の武力を背景とした親ソ連の傀儡政権樹立を見れば、中国を奪い取るであろう事は十分に予想できる。


「何とか、ソ連の動きを阻止できないか」


「阻止するにしても、米軍は動ける状況ではありません」


 グルーの意見にトルーマンは沈黙を以て肯定する以外なかった。

 ソ連を黙らせるには力を背景にしなければならない。

 だが米軍は力を見せつけられる状況ではない。

 沖縄戦は膠着状態。

 艦隊は壊滅状態で動くことは出来ない。

 パナマ運河は破壊され、太平洋方面の部隊を維持する事さえ困難だ。

 増援を送ろうにも再度のワシントン空襲を警戒していておく必要があるし、送れるとしても、太平洋の反対側であり、輸送だけで一月は掛かる。

 その間にソ連軍は、中国大陸を無人の野を行くが如く進撃し、制圧してしまうだろう。

 蒋介石が出てきても、ソ連の圧倒的武力の前に、立ち尽くすしかない。

 八年も援助を行っても、日本軍に負け続けた蒋介石の軍隊がドイツを打ち破ったソ連軍に対抗できるはずがない。

 あっという間にアメリカは戦後最大のライバルになるであろうソ連に追い詰められてしまった。

 そこで疑問が出てくる。


「国務長官、ソ連のこの動きは知っていたか」


「いいえ」


 トルーマンの問いにグルーは首を横に振って否定した。


「一体、何が起きたんだ」


 いくら、ソ連に有利でもこれだけの交渉を密かに纏め上げたのか、トルーマンは恐ろしかった。

 それは閣僚達も理解していたが、この国際政治の奇跡を引き起こしたトリックが不明なため、そしてそれが引き起こした未来、ソ連の拡大という悪夢に恐怖を抱いた。


「スターリンは何をしたのだ。いや、誰がスターリンと手を結んだのだ。一体、極東の情勢はどうなっているのだ」


 トルーマンの問いに誰も答えることは出来なかった。

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