ワシントン空襲
「命中! 指定された箇所に当たりました!」
後ろの偵察員が報告する。
搭載した二五番――二五〇キロ爆弾二発が目標である国務省ビルの指定された区画に命中した。
発進後低空飛行で侵入し命中させる事が出来た。この日のためにワシントンとその周辺の地形は潜水艦の中で頭に入れていた。
初めてワシントン上空を飛んでいるが、目を瞑っても飛行できる自信がある。
「さあ、派手にばらまくぞ」
攻撃が終わった後、機長は機体をワシントン記念塔の方向へ向かわせる。
同時に周辺にビラを捲く。
日本の開戦理由と東京空襲の非人道性を伝え日本は祖国の為に戦っていることを書いたものだ。
そしてワシントン記念塔上空で北に向かい、次の目標へ向かう。
「目標確認!」
写真で見た世界でも有名な白い建物。
そこに向かって、晴嵐は突進する。
「撃っ」
目標上空で爆弾を投下した。
「こちらも命中です」
偵察員が軽く言って報告した。
今度のは炸薬の無い模擬爆弾だ。
目標も建物の前庭であり、問題ない。
まあ中には爆弾に等しいものが入っている。
「任務は終了だ。直ちに帰還する」
すぐさま晴嵐は逃げ出した。
この作戦は無事逃げ帰るのも目的となっている。
いや、それが作戦目的だ。
東海岸を襲撃できる手段を日本が持っている、実行できることを示しアメリカ政府に脅しをかける。
しかも取り逃がした事実はアメリカは恐怖に震える。
これは講和に大きく寄与するはずだ。
上手くいかなくても、米軍は再度の空襲を警戒して、かなりの戦力を大西洋方面に回す必要が出てくるので太平洋方面の戦力は少なくなる。
仮にパナマ運河が復旧しても伊四〇〇と晴嵐の奇襲攻撃に備えて、東海岸に警戒と哨戒に配置される部隊が多数出てくる。
講和がならない、継戦となったとしても、それらの部隊が動員できないとなれば日本には有利な状況となる。
これまで出撃できず、戦局に寄与できなかった分、ここで味方の為にも成果を上げたい。
そのためにも晴嵐は母艦へ急いだ。
そして、母艦も急速潜航して東海岸海域を離脱した。
米軍に仕留められたという証拠を残さないためだ。
いるかいないか分からない状況だといると仮定して行動し警戒しなければならない。
それが潜水艦の特徴であり最大の成果だ。
その意味で伊四〇〇型は別種の脅威を与えた革新的存在だった。
撃沈されないためにも、存在し続けると思わせ威圧するためにも、離れていった。
だが、彼らの離脱先は日本ではなかった。
「どういう事なのだ!」
ワシントン空襲の翌日、閣議を開いたトルーマンは怒鳴った。
特に軍服組のキングとマーシャルに対して激しく怒りをぶつけた。
「ワシントンに日本機の侵入を許し国務省への爆撃を許すとは! バーンズはそれで死んだのだぞ!」
ホワイトハウスにも爆弾が落とされた。自分も狙われていることの証だった。
幸いにも破裂はしなかった。だが、内部からは細菌兵器が見つかっている。
内部の菌も活性化しており、作動すればワシントン全体を細菌で感染地帯にすることが可能であると証明された。
「だがボストン、フィラデルフィア、ニューヨークそしてノーフォークの変電所が空襲され、都市は大停電だ。それにビラを撒かれて市民はパニック状態だぞ」
空襲はワシントンだけで無く、他の都市へも行われた。変電所が破壊され電力供給がストップした。
送電は直ぐに再開できる見込みだが、市民の混乱は避けられない。
「対策は出来ているのだろうな」
「はい、直ちに寄港中の駆逐艦に出撃命令を下し、沿岸部を徹底的に哨戒しております」
海軍作戦部長のキングは苦虫を噛み潰しながら報告した。
合衆国の海となった大西洋に日本の潜水艦に侵入され、首都とその他都市を爆撃されたのは屈辱だった。
しかも、ライバルの一人グローブスが出てきて進言する。
「大統領、反撃を行うべきです。原爆を投下して、日本の交戦意欲を奪うべきです」
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