伊四〇二とバウアー少佐相当官
「作戦決行が決まったぞ」
潜特型潜水艦伊四〇二艦長中村少佐は通信室から本国からの通信を受けて幹部達に伝えた。
伊四〇〇の姉妹艦であり、非常に大きい。
しかし、何ヶ月も潜伏したため、疲労の色が濃い。
だが、ようやく下った命令に全員の意気が上がる。
「何処を攻撃するのですか?」
全員が期待した眼差しを向ける。艦長は少し躊躇ったが、正確に伝えた。
自分たちが望んだ目標で無い事に彼等は落胆した。
「仕方ない、命令だ。命令を実行するだけだ。だが確実に実行しろ。この後もやる事があるのだからな」
「少し残念ですな」
多少、滑らかさに欠ける日本語を話したのは顧問のバウアー少佐相当官だった。
ドイツ降伏時日本にいたため抑留されたが未だ交戦する日本海軍への協力を申し込んで受け容れられた人物だ。
「私も攻撃隊に加えて欲しいのですが」
エースパイロットでありUボート艦長であるバウアーは残念がった。
彼が受け容れられたのは、動機もそうだが彼の経歴が非常に有用、Uボートの指揮官であり戦闘機、それも東部戦線で地上攻撃を繰り返した歴戦のパイロットだったからだ。
バウアーは再軍備宣言の前後、ドイツ海軍が拡張を始める時期に兵学校をくぐった青年だった。
当時のドイツ海軍は将来、航空機が海上の戦闘を左右すると確信しており、その将来の海軍航空隊の中核とするべく候補生達に航空教育を施していた。
一時期など生徒の半数を航空科に配属させていたほどの力の入れようだった。
だが、彼等の運命その後ゲーリングの横槍、帝国において翼のあるものはすべて自分の指揮下にあるという主張とその後のヒトラーの調定により、空軍が航空機全てを管轄することになった。
そしてようやく生まれつつあったドイツ海軍航空隊は、ドイツ空軍に人員ごと移籍することになった。
だが、戦術空軍、地上支援型のドイツ空軍には洋上を哨戒、まして攻撃する能力など無かった。
そのため洋上飛行の研究を続けていた元ドイツ海軍航空隊を中核に洋上哨戒専門の第九および第十航空軍団を創設し任務に当たらせた。
彼等は稀少な大型哨戒機Fw200を初めとする機材を使い任務を果たし開戦初期において長距離哨戒飛行を行いUボートの誘導をおこない自らも船団攻撃に加わり三五万トンの戦果を上げ、英国から<大西洋の疫病神>と呼ばれていた。
そして、彼等は洋上勤務を主とする海軍士官であったために軍艦の艦載機パイロットとしても搭乗した。
中でも、ドイツ初の空母となるグラーフ・ツェッペリンの搭乗員として乗艦する事に期待を寄せられていた。
バウアーもその一員として戦闘機へ異動、訓練を続けていた。
だが開戦が全てを狂わせた。
グラーフ・ツェッペリンは建造が一時中止され、航空隊パイロットは空軍の元で陸上戦闘機部隊として第二次大戦に参加し、実際に六機の敵機を撃墜しエースの称号を得ていた。
地上攻撃にも参加しており、車両などを破壊しているし、精密爆撃もお手の物だ。
しかし、ヨーロッパ平原で簡単に飛行場を作れると判断していたドイツ空軍戦闘機の航続距離は全て短く、イギリス上空の制空権を握ることは不可能だった。
そして当時イギリスを屈服させられる兵器は、Uボートのみだった。しかし、次々と就役するUボートの艦長及び士官が足りなかった。
そこで、海軍士官教育を受けている元海軍所属の空軍パイロット達の再移籍が始まった。
バウアーも選ばれUボート乗組士官となる。
直後、グラーフ・ツェッペリンが就役し、航空隊が編成され呼び戻されることをバウアーは期待したが、グラーフ・ツェッペリンと共同作戦が出来る艦長として、航空戦が理解出来ているとして、潜水艦部隊残留を命じられて仕舞った。
失意の中、バウアーは初めての哨戒で大西洋中央へ出撃した後、二度目の出撃で対米開戦に望みアメリカ東海岸に進出して攻撃を行った。
その後は敵の警戒が厳しくなり戦場を変更北極海航路を進む連合軍船団攻撃任務に赴く。
幸か不幸かバウアーは航空戦の知識を生かしてグラーフ・ツェッペリンと共に作戦行動する事が多く、多大な成果を上げた。
結果、Uボート艦長としての名声と地位が固まりパイロットとして見られなくなって仕舞った。
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