敵来襲

「作戦は大成功です」


 伊四〇〇に収容された高橋少尉はすぐに有泉へ報告に向かい、聞いた有泉はは満足そうに頷いたあと尋ねた。


「攻撃機はこれで全部か」


「付いてきた機体は。攻撃終了後は敵の追撃を振り切るため、各隊、各機で母艦を目指すことにしていましたので。現在、出撃機の内、三機が未到達です」


 攻撃開始後は途中ではぐれても、各機で母艦を目指すことにしていた。

 そのため、三機が機位を見失いはぐれたようだ。


「上空に機影あり」


 見張員が報告する。


「味方機です!」


 はぐれた機体だった。無事に帰って来れたことを喜ぶ声が甲板に響く。

 機体は旗艦の近くに着水し乗員が救助に向かう。


「もう二機来ます」


 その時、見張員が報告した。

 まだ二機残っており、彼等もたどり着いたと思ったからだ。


「更に後方より二機、合計四機接近!」


 見張員の報告で甲板の乗員は戦慄した。未帰還機より多い機体を上げられるのは敵だけだ。


「対空戦闘! 乗員収容の時間を稼げ! 僚艦には潜航を命令!」


 有泉が命令を下す。

 艦橋下の機銃群が敵機に向かって発砲を開始した。

 遠距離で命中は期待できないが、味方に敵機来襲を知らせることは出来る。

 やがて射程内に入ると敵機は攻撃を開始した。


「敵はP47サンダーボルトです」


 単発機だが足が長く大量の武器を搭載できる機体だ。

 浮上中の伊四〇〇に対して機銃射撃を行う。

 銃弾が船体を叩き、甲高い音がする。


「被害報告!」


「被弾するも艦内に被害ありません!」


 二〇ミリ機銃に耐えられる防御力を伊四〇〇型は持っている。敵機の朱武装五〇口径、一二.七ミリは跳ね返せる。

 更に甲板に備え付けられた二五ミリ機銃群が弾幕を張って寄せ付けない。

 僚艦も対空射撃を行い時間を稼ぐ。


「機体は全て着水したか」


「乗員の収容は終わりましたが自爆がまだです」


「乗員が退避しているなら機銃射撃で吹き飛ばせ! 晴嵐を奪われるな!」


 機銃が晴嵐に放たれ穴だらけにして行く。

 当初の計画通り一四サンチ砲を積んでいれば一発で破壊できたと砲術長は悔しがった。だが、命中するまでの時間を考えると機銃の方が発射速度が速く結局は早いと思い黙り込んだ。

 実際、穴だらけにされた晴嵐は、急速に沈んでいった。


「司令! 乗員収容完了! 晴嵐の処分も確認しました。僚艦も潜航しています」


「良し、直ちに潜航! 逃げるぞ!」


「はい、射撃止め! 潜航するぞ! 給弾するな!」


 艦長が機銃群の要員に怒鳴って命じる。発砲音で命令が伝わり難いからだ。

 給弾を止めたのもそれで弾倉の補給が無ければ機銃は撃てない。

 弾切れを起こした機銃は命令が伝わり、銃手達は艦内に戻っていった。


「急速潜行!」


 命令と同時に船体から海水が吹き上げた。その時一機の敵機が接近してくる。

 機銃射が行われ南部の脇を銃弾が通り過ぎる。

 敵機が通り過ぎた後、南部はハッチに入り込み閉鎖した。

 それから直ぐに伊四〇〇は海中へ没した。

 三五〇〇トンクラスの潜水艦でありながら艦政本部の設計により急速潜行に一分もかからない。

 敵機の攻撃を避けた伊四〇〇はそのまま全速力でその場を後にした。

 しかし、別の敵が現れた。


「敵の駆逐艦らしき音、聞こえます。複数探知」


「よりによって駆逐艦か」


 パナマ近くを航行していた護衛船団から分離した駆逐艦の接近に有泉龍之介大佐は苦い顔をする。

 いや、むしろいない方がおかしい。

 パナマ運河は交通の要衝であり多数の船団がいる。万が一に備えて、護衛を配置していてもおかしくない。

 あるいは大西洋の母港からやってくる、または帰還する駆逐艦が近くに居てもおかしくはなかった。

 運河攻撃と攻撃隊の逃走方向からの推測、さらに攻撃を加えた航空隊の通報により位置を捕捉した。


「こっちに向かってくるか?」


「いいえ、本艦の脇を通過していきます。あ、爆雷投下」


「味方潜水艦を攻撃しているか」

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