攻撃成功
高橋は僚機に伝えるとガツンダムに向かう。
上空から位置を確認し、翼の位置で突入角度とタイミングを計る。
「よしここだ!」
狙いを定めた高橋は急降下を始めた。
照準器にダムの堤体を捉えると八〇〇キロ徹甲爆弾を投下。見事ダムに命中させた。
残りの五機も爆弾を投下してダムに命中させる。
しかし五回目の攻撃でもダムは健在だった。
膨大な水量を受け止めるだけにダムは非常に強固だ。
「ダメか」
失敗したかと思ったその時、ダムの中心部に上空から見ても明らかな亀裂が見えた。
亀裂は拡大し水を噴き出すと突然ダムが崩壊して大量の水を流した。
「良し! 成功だ!」
作戦目標を完全に破壊できた高橋は叫び後ろの偵察員も歓声を上げる。
「戦果確認だ。写真を撮れ」
「は、はい」
高橋の声で偵察員は写真機を構えてダムの様子をフィルムに収める。
「おい、閘門の方も撮っておけよ。攻撃に成功したぞ」
一発しか命中せず、びくともしなかった残りの閘門だったが、やはりダメージを受けてヒビが入ったらしく、水圧に耐えられず崩壊して湖水をカリブ海に流していた。
大量の水がコロン港に流れこみ、停泊していた船舶を巻き込んだ。
「写真は撮ったか」
「はい、無事に撮りました」
「よし、長居は無用だ。帰還する」
身軽になった高橋達攻撃隊はフルスロットルでパナマ運河上空から撤退を開始した。
エンジンは快調に動き最大速力五六〇キロで離れて行く。
途中、他の攻撃機が攻撃した太平洋側の二閘門も破壊されているのを確認して写真に収めると急降下して海面スレスレに下りて母艦へ向かった。
「隊長。間もなく会合点です」
「おう」
高橋達は母艦が待つ発進地点に向かう。発進から約三時間、そろそろ燃料が危ない。
「上昇する」
敵のレーダーを警戒して低空を飛んでいたが、味方を探すには高い場所を飛んだ方が見つけやすい。
「隊長、標識素です」
海面が黄色く染まった部分を見つけた。
母艦が回収予定地点を示すために海面を染め上げる染料だ。
やがて伊四〇〇型が次々に浮上してきた。
「各機、手近な艦の近くに着水しろ!」
回収を迅速にするために予め、所属艦に関係なく最寄りの潜水艦近くに不時着水することが決められていた。
晴嵐は投棄し搭乗員のみ回収する。
晴嵐はフロートを付けられるが、魚雷を搭載していると発艦重量を超過して発進不能になるため今回の攻撃では取り付けられていなかった。
それにフロートを付けていると最大速度四七四キロまで遅くなる。
敵の迎撃、追撃を考えるとフロートを付けることは考えられなかった。
それに波の高い外洋で着水出来る保証はない。そのため初めからフロート無し、不時着水が決められていた。
初め六三一空飛行長の福永少佐は全機特攻も考えていた。
だが、訓練した搭乗員を大量に失うのは今後に差し支えがあるという理由で却下され、母艦近くに不時着する事に決まった。
「着水するぞ! 耐衝撃姿勢を取れ!」
偵察員に命じた後、高橋少尉はエンジンを停止させ海面に突っ込んだ。
水しぶきを上げて晴嵐は無事に着水した。
「大丈夫か」
「は、はい」
「よし、下りろ。自爆装置を忘れるな」
万が一にも敵に晴嵐の事を知られないよう自爆装置を作動させる。
さらに機密文書と戦果を記録したフィルムを回収したとき、潜水艦の乗員がボートで迎えに来た。
「早くボートに乗るんだ」
先に偵察員を行かせると高橋少尉は後に続いて翼の上を走り、ボートに向かう。
丁度ボートが翼端にたどり着き、彼らを収容した。
「離れてくれ、自爆装置を作動させた」
迎えた乗員は作戦成功を喜んでいたが、高橋の一言で我に返り、すぐに離脱を始めた。
高橋はボートの上で晴嵐の様子を確かめる。
だが、何時までも爆発しない。
「故障したか」
引き返して、確認しようと考えた時、突如晴嵐が爆発した。
機体の中央から炎が上がると、やがて浮力を失った機体は尾翼を空に向かって突き上げると、海に沈んでいった。
「よし、任務終了」
アメリカに晴嵐の性能を知られるわけには行かない。
知られたら対策をとられ次の任務に支障が出る可能性が高い。
だから、惜しいが爆破処分だ。
他の晴嵐も次々と爆発している。
中には自爆装置が不調で浮いたままの晴嵐もあるが、全て二一型だ。
高性能な一一型はあらかた処分が出来ていた。
それが、慰めだった。
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