攻撃隊発進
格納筒の水密ハッチが開いた。建造時最大のネックとなった場所で水密の維持に苦労した。
そのハッチが全開となり中の飛行機に光を当てる。
晴嵐二一型。晴嵐の改修機である。
元が世界の至る所へ攻撃するという目的の為にどんな場所、たとえ南極だろうが北極だろうが何処でも飛行可能、攻撃できる機能を搭載機に求めた。
故に晴嵐の搭載機器は精密を極め、潜水艦への搭載可能という条件もあって非常に高価で生産コストの高い機体になってしまった。
機体が精密で作るのが難しい事もあり遅々として生産は進まず続々と建造される伊四〇〇型の定数を満たすことが出来なかった。
そこで必要最低限の性能、太平洋とその周辺での活動を想定し、そのための機能を残してほかを取り外しコストを下げたのが二一型だった。
他の海域で使うときはそのための改修を行う事になっている。
そのため搭乗員からは改悪型と呼ばれ嫌がられていた。
だが目論見通り生産は順調に進み、第一潜水隊の定数伊四〇〇型四機一〇隻の四〇機、伊一二型六隻三機の一八機、合計五八機を配備させることが出来たのだ。
そもそも第一潜水隊が出撃出来なかった理由の一つは搭載する晴嵐の数が揃わなかったためだ。
二一型は搭乗員の評価はともあれ、所定の最低限の性能を備え、数を揃えるの役目を十全に果たしたと言える。
その晴嵐二一型が今飛び立とうとしていた。
「一番機前へ!」
号令と共に乗組員が魚雷を搭載した一番機をカタパルトに向かわせる。皆渾身の力を込めて押しているが、長い航海で波に洗われたレールは曲がり、動かすだけでも一苦労だ。
ようやく定位置に付かせると、主翼の展開作業を始める。折りたたまれた主翼を開き、九〇度回転させて定位置にするとピンで止めた。この構造のお陰で一分で主翼を展開できる。
「主翼展開良し! 発動機回せ!」
熱田エンジンが勢いよく回り始める。予め潤滑油も冷却水も潜水艦で温めて機体に送り込んでいたため直ぐに暖気が終わる。
「カタパルト異常なし、圧縮空気充填完了!」
「発動機異常なし、各部異常なし、発進準備完了!」
「晴嵐一番機発進せよ!」
発進要員が艦の動きを見る。艦が波に乗り艦首を浮き上がらせた瞬間に発進させる。
もし艦が下りの波に乗っているとき機体が波に向かって機体が突っ込むことになる。
だが発進要員は、素晴らしいタイミングでカタパルトを作動させ、一番機は太平洋の大空へ飛び立った。
「二番機発艦急げ!」
一番機を見送ってもまだ二番機がある。彼等は格納筒の奥から二番機を引き出し同じようにカタパルトに設置する。
「二番機発艦せよ!」
カタパルトへの空気の充填も終わり、二番機も大空へ飛び立つ。続いて三番機が飛んでいった。
「予定全機発艦終了しました」
「うむ」
艦長の報告に有馬は頷く。
他の艦も次々と晴嵐を飛ばし、上空は十数機の晴嵐が旗艦を中心に旋回して編隊を組んで行く。
やがて最後の一機が合流し三〇機の晴嵐は編隊を組み上げると、北の空へ向かって行った。
「司令、全機発艦しました。上空での合流にも成功し空中発進。僚艦は潜航を始めております」
「よし、全艦の潜航を確認次第、本艦も潜航だ」
「了解! 潜航用意!」
号令が響くと甲板に上がっていた乗組員が格納筒のハッチを閉鎖し、艦内に戻っていく。
「最後の艦が潜航しました」
甲板のハッチが閉じたとき、見張員が報告する。
「潜航せよ!」
「ベント開け! 潜航!」
艦長が命じると先任士官がベントを開かせ、船体の各所から海水が吹き上がる。メインタンクの上部にある栓が開き、空気を押し出し海水を充満させる。艦の重量は急速に増大し、伊四〇〇は海中へ向かう。
その間に艦橋要員は全員艦内に入った。最後の一人がハッチを閉じて閉鎖したとき、海水が全てを洗い伊四〇〇は海中に没した。
「潜航完了!」
「見事だ。浮上から一〇分程度しか掛かっていない」
初めての出撃で、航行中、碌に訓練が出来ていないのに、これだけの実力を発揮した諸艦には感謝しかない。
「収容予定時刻まで待機せよ」
あとは攻撃隊が帰還してくるまで待機しているだけだ。
既に日は昇っていたが、第一潜水隊の姿は洋上にはなく、穏やかな海だけだった。
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