大西洋潜水艦作戦構想
東海岸がアメリカの中枢であり重要な箇所だ。
重要な航路もあり、商船の動きも活発だ。
実際、アメリカが参戦した直後、ドイツのUボートがアメリカの東海岸に押し寄せ、多大な戦果を挙げていた。
第二次大戦が始まっていない時期だったが、東海岸攻撃は効果があると考えられた。
ここを攻撃出来ないか。
せめて通商路を襲撃できないか。
こうして大西洋での通商破壊を目指した潜水艦計画、のちの伊四〇〇型となる原計画が始まった。
当時の日本海軍は西海岸まで行く――出撃する米海軍の動向を探りあわよくば襲撃して少しでも戦力を減らすための大型の潜水艦を開発していた。
世界的にも卓越した航続性能を――他に多大なハンデを与えつつも持っていたが、これらの潜水艦でも東海岸にまでは行けない。
しかし、これまでの蓄積した技術は大西洋まで行く潜水艦の建造は可能であるという報告を受けた。
そして大西洋派遣の為の潜水艦開発が始まった。
最初は、通商破壊用として計画された。
当初案に一四サンチ砲を二基積んでいるのも、魚雷発射管が八門なのも、そのためで、軽巡並みに大きくなったのは、大西洋まで行く航続距離を得るためだ。
そしてこれだけの大きさなら、航空機を搭載して偵察や奇襲が出来るのではないか。
潜水艦で航空機を運用している帝国海軍ならば当然思い至ることだ。
伊四〇〇型に二機の航空機を搭載して、襲撃しようと考えた。
建造隻数の一八隻は、六隻で襲撃を行い、残り六隻は基地での整備、残り六隻は本土との往復用に想定。
軍事的に妥当な隻数だった。
しかし、ここで計画は変更された。
「商船を攻撃するのではなく、要地を襲撃してはどうか」
せっかく本土まで東海岸近くまで行けるなら要地を、アメリカの経済の中心である東海岸の重要施設を直接攻撃、破壊しては混乱させてはどうか。
幸い、計画中の潜水艦には航空機を搭載する計画もある。
航空機で敵の重要施設を破壊すれば良いではないか。
これまで、船を攻撃する事しか考えていなかった日本海軍に新たな思想が芽生えた。
丁度開戦により建造計画が変更され、伊四〇〇型は一二隻に減らされた。
これを機会に大西洋攻撃潜水艦は戦略的要地奇襲用として用途変更され、備砲を全廃し格納筒を延長して攻撃機が四機に増加。
数を減らされた分、代替艦として戦隊旗艦用潜水艦として建造中の伊一二型を攻撃機三機搭載の伊一二型として六隻が建造された。
こうして竣工したのが伊四〇〇型と伊一二型潜水艦だった。
これまでの敵艦隊の漸減作戦としての艦船攻撃戦術兵器ではなく戦略目標を航空攻撃する戦略攻撃型兵器として出来上がった。
そのため事実上の潜水艦隊であり漸減作戦の先鋒である第六艦隊ではなく連合艦隊司令部の直属潜水隊として戦略目標の攻撃専門に使われる事になった。
だが帝国海軍史上いや世界の海軍史上初めての戦略攻撃型潜水空母だったため目標選定が定まらない。
そもそも前例がなさ過ぎて、何処を狙えば良いのか、成果が得られるか分からなかった。
味方が太平洋で激闘を繰り広げる中、就役した伊四〇〇型は安全な日本本土近海での訓練の毎日となったのも上層部の運用方針が混乱したからだ。
しかし、ここに至ってようやくパナマ運河という攻撃目標が定まり、今攻撃機を発進させようとしている。
日本出撃から洋上二度の給油を行う以外は各艦単艦行動を続け、先日会合点で全艦合流出来たのは奇跡だ。
敵に見つかることも故障も無く、全艦が合流出来たのは天佑神助だと有泉は確信した。
特に伊一四がたどり着いてくれたのは良かった。
門司に入港しているとき、空襲警報にも拘わらず酒盛りを続け、町までその声が聞こえた事を耳に挟んでいた。彼等が何かやらかさないか心配だった。
「総員配置に付きました!」
伊四〇〇の方は、既に配置を終えた。
格納筒上部に取り付けられた四基の二五ミリ三連装機銃が敵機を警戒する。
浮上時、特に航空機発進寸前で最も無防備なるこの瞬間から艦を守るためだ。
本来なら対艦用に後部へ一四サンチ砲が二門取り付けられる予定だったが、三機に増やすとき格納庫延長のため一門減らされ、更に四機に増やすとき全て無くなった。
戦略攻撃のみが目的なのだから、それ以外の作戦行動、通商破壊はしない。
そもそも敵が見張っている中、攻撃機を出撃させることは出来ない。
使うことの無い砲を積むくらいなら航空機を一機でも多く積み込めという判断の下、砲は全廃。
砲術要員を乗せる必要が無くなり、搭乗員および整備員の区画が広がった。
おかげで、最大限に攻撃機を送り込む事が出来る。
「格納庫開け!」
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