作戦発動

「司令! 我々もどうか出撃させて下さい!」


 飛行服を着た搭乗員二人が入って来た。


「我々も四番機も出撃出来ます。どうかお願いします!」


 突如発令所に入ってきたパイロットと偵察員は有泉に頭を下げて懇願した。

 自発的な熱意に感動した有泉だったが、首を横に振った。


「君たちの心意気は嬉しい。だが、許すわけにはいかない。既に作戦は三機の発進で決まっている」


 準備中に四号機に不具合が見つかり、飛行中、性能が低下すると報告を受けていた。

 攻撃中に遅れることが十分に考えられる。

 出撃までに修理の目処たたず、有泉は四番機の発進中止を命じていた。


「そこをどうにかお願いします!」


「四番機は故障で参加できない」


「ですが、ここまで来て」


「諸君らには感謝している。だからこそ堪えてくれ」


 他の艦でも使用予定機の一機がエンジン不調でもう一機が機体側の不具合で使用不能となり、先日の会合時に搭載機の入れ替え作業を行うに至っている。

 ここまで来てくれたのに出撃させられないのは残念だが、隊の安全の為に、彼らの為にも堪えて貰った。

 涙を流して待機場所へ二人は戻っていった。


「司令、予定時刻です」


「よし、作戦を開始せよ」


 時間となって有泉は命じた。


「各部戦闘配置」


「各部戦闘配置」


「魚雷室準備良し」


「機銃員配置に就きました」


「機関室、準備良し」


「蓄電池室、異常なし」


「格納筒、各機に整備員付きました」


「各部閉鎖完了」


「艦長、準備完了しました」


「よし、潜望鏡深度まで浮上せよ」


 南部艦長の命令で艦は潜望鏡震度まで浮上した。


「潜望鏡上げ!」


 発令所から司令塔に昇った南部艦長が上がってきた潜望鏡に取り付き一周する。


「下ろせ!」


 発見されるのを恐れて素早く下ろす。敵影は見なかったが、見つかる確率は少しでも低い方が良い。


「電探、逆探に反応ありません」


「聴音、異常なし、僚艦も位置に付きました」


「司令、目視でも周囲にも敵影は無し。予定通りです」


 南部は発令所の有泉に報告する。

 有泉は数秒、沈思黙考、聞き漏らしがないか確認した後、大声で命じた。


「作戦開始! 浮上せよ!」


「宜候! 浮上ーっ!」


「メインタンクブロー!」


 司令、艦長、先任の順に号令が響き、各部署の乗員が潜水艦を海面へ動かす。

 圧搾空気がメインタンクに送られ、海水を排水し船体を海面に押し上げた。

 海面に最初に出たのは艦橋だった、その次に出てくるのは船体だが、この潜水艦は違った。

 艦橋の下、いや艦橋が生えているように見える巨大な格納筒が現れた。次いで船体の上に設置されたカタパルトが現れる。

 そして、それらを乗せる船体は巨大で排水量は三五〇〇トン前後。

 小型巡洋艦並みの大きさだった。

 日本海軍が生み出した潜特型潜水空母伊四〇〇型一番艦伊四〇〇の勇姿が洋上に現れた。

 浮上と同時にハッチが開かれ、見張りの乗員が飛び出す。

 艦長の南部も司令の有泉も格納筒左側に付けられた艦橋の上に立った。


「周囲に敵影無し、僚艦浮上異常なし」


 右の海域が朝日に照らされて周囲が明るくなり始め、全艦の姿を照らす。

 連合艦隊直属第一潜水隊の僚艦である他の同型艦三隻と伊一二型六隻も同時に浮上しその勇姿が視界に入った。

 元々の計画は佐久田が海大時代に書いた世界一周可能な攻撃機搭載潜水艦を以て、世界中の至る所へ攻撃を可能にするという論文からだった。

 誇大妄想として日の目を見なかったが、当時海軍次官だった山本の目に止まり、計画は実行に移された。

 そもそも、伊四〇〇型の建造、大西洋まで潜水艦を派遣する事はかねてより、戦前から計画されていた。


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