インタビュー パナマ運河庁

「本日は取材に応じて頂きありがとうございます」


「いや、報道機関の方々に我々のことを知って貰い、世界の人々に重要性を周知していただけるのは嬉しいことです」


 パナマ運河庁長官はスペインの報道誌ブラウ記者の言葉に鷹揚に頷いた。

 リップサービスで取材対象の心を軽くした記者は早速、質問を始める。


「長官が管理していらっしゃるパナマ運河は非常に重要な運河という事ですが、どのように重要なのでしょうか」


「その通り、パナマ運河は重要です。パナマ運河完成まではアメリカの東海岸から西海岸まで行くには大陸を横断するか南米の南端、危険なホーン岬を回るしかありませんでした。本土の大陸横断鉄道は時間が短いのですが金額が高い。運べる量も船に比べて少ない。このパナマにも横断鉄道はありましたが、同じ問題がありました」


 広大な合衆国だが、その広大な領土が東西の交流を阻んでいた。

 特に中部の大平原とロッキー山脈は障害であり、鉄道輸送のネックとなっていた。

 人々は料金の安いパナマ陸路経由で行くことにしたが、熱帯を通るため病気になりやすい。

 船の場合は、特に貨物は料金が安いが、最南端のマゼラン海峡は世界でも海の難所として有名で難破する船が多かった。

 そのため、メキシコ湾と太平洋が最も近いパナマに運河の建設が望まれた。


「しかし、このパナマ運河が出来て以来、最短距離を船でしかも安全に移動出来る様になりました」


 1914年パナマ運河が完成して以降、航路は著しく変わった。

 当初は利用が少なかったが年を追う毎に通行量は増えている。

 特に米海軍は喜んでおり、大西洋と太平洋にそれぞれ艦隊を置いておく必要があり、戦争になった時一方へ艦隊を送るための日数が短縮された。

 その成果は第二次大戦が始まってから著しい。

 膨大な物資がパナマ運河を通じて太平洋戦線へ船で運ばれていた。


「この運河はスエズ運河と並ぶ、最良の、世界でも重要な運河であると確信しています」


「しかし、スエズ運河は日本軍のソコトラ島占領以降、その出口である紅海が封鎖され、機能不全となっています。ソコトラ島は最近奪回されましたが同じような事がパナマでも起きるのでは?」


「パナマ運河は戦線の遥か後方に位置しております。前線との間には幾重にも哨戒線があり、日本軍の攻略部隊が来ることはありません。もし向かうとしても先日空襲を受けたハワイでしょう。それもサイパン奪回戦に日本が敗れて以来、可能性は少なくなっています」


「では、パナマ運河の重要性は低下していると」


「いいえ、太平洋に展開している連合国軍の膨大な補給物資を送るための重要な通過点です。合衆国の工場地帯は東海岸に集中しており、そこから生み出される軍需物資を太平洋戦線に送り出すのにパナマ運河は無くてはならない存在です」


「合衆国には大陸横断鉄道がありますが」


「鉄道では一日に貨物船一隻分の荷物を運ぶだけで精一杯です。大量輸送には船舶の方が優位です。勿論鉄道の方が早いですが運べる貨物の量は船舶が上であり、パナマ運河を通らなければ、海の向こうの目的地に向かえません」


「つまり太平洋での前線が進み、後方になろうとパナマ運河の重要性は変わらないと」


「はい、むしろヨーロッパの兵力が移動してくる分、より重要になると考えています。彼らや彼らが食べる食料や使う装備を運ぶのに必要ですから」


 長官の意見を肯定するように外の港では運河の通過待ちの船舶が列を連ねていた。

 太平洋戦線は兵力は少ないが多くの艦隊や航空機が動く。

 それらを動かすための必要物資は膨大で、大量の船舶がパナマ運河を使わなければ輸送できなかった。

 吃水を深くした何十隻もの貨物船や商船はその証明だった。


「パナマ運河の重要性がよく分かりました。本日はどうもありがとうございます」


「いえいえ。お気遣い無く、報道の方には便宜を図るように言われていますから」


「重ね重ねお気遣いありがとうございます。つきましては先日要望しておりました各施設の撮影の許可を」


「勿論です。この前提供した昔の写真を交えて確認しましょう」


 十数分後、ブラウの記者は取材を終えて運河庁の庁舎から出てきた。後日、運河の関連施設への写真撮影と取材許可も得てだ。

 その様子を、記者の動きを運河庁の建物とは通りの反対側に駐車していた車から撮影する男達がいた。

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