正体不明の潜水艦

 この潜水艦部隊が特に異常なのがその点、連合艦隊司令部直属だったからだ。

 何故そんな上位組織の直属部隊にされているかが見当が付かない。

 合衆国海軍に似たような部隊も無いため、どんな任務を課せられたのか想像できず余計に不気味に感じる異常な部隊。

 どのような部隊か気になるし未知の潜水艦十隻は大きな脅威だ。


「どんな潜水艦か分からないか」


「はい、不明です」


 任務不明というのも気になった。

 近年の日本海軍は専門の潜水艦を極力建造しないようにしている。

 汎用の戊型潜水艦の他には物資輸送用、大艇補給用の潜水艦のみ、それも戊型潜水艦からの設計流用でできる限り、互換性を保証するようにしている。

 にも関わらず、あえて新規に別タイプの潜水艦を建造した事が気になる。

 通常、これまでの任務ならば既存の戊型潜水艦を配置換えすれば、済む話しだ。

 だが、あえて建造したのは戊型潜水艦では出来ない、いや既存の潜水艦では出来ない事をやらせようとしているのではないか。

 それが、何なのか気になる。

 偵察や輸送ならこれまでの潜水艦の流用で使える。

 なのに新たなタイプを、十隻も建造して行うのが信じられない。

 それだけの事を、多くの資源と予算人員を割いてまで行うことなのか。

 既存の潜水艦では出来ない、十隻もの大量建造を行ってでも価値がある事をしようというのか。

 余裕のない日本海軍が、激闘のソロモン諸島どころか、決戦と設定し激闘を繰り広げたマリアナやレイテにさえ投入されず、温存している部隊。


「指揮官は分かるか」


「有泉龍之介大佐です」


「あの有泉か」


 有泉は有名な潜水艦の参謀であり指揮官だ。

 真珠湾攻撃の時、特殊潜航艇を突入させる作戦を立案させ成功させている。

 また潜水戦隊参謀として占領したばかりのペナン島に潜水艦基地を建設し、完成後はインド洋での通商破壊を指導。

 連合国に多大な被害を与え、四二年後半からのインド洋が事実上寸断する原因の三割は有泉が作ったペナンを拠点とする潜水艦のせいだ、と言われている。

 ちなみに七割は、圧倒的な航空戦力で護衛および哨戒戦力を破壊した日本機動部隊だ。

 潜水艦の艦長としても有能で伊八潜水艦を指揮して十万トンの商船を撃沈。

 優秀な潜水艦指揮官としてマークしていた。

 だが、今年に入ってから異動したためか、話が入らなくなり、警戒が薄れていた。

 しかし、その彼が指揮官というのは恐ろしい。

 そこまで力をいれて行う潜水艦作戦。

 あるいは通常の作戦には投入出来ない性能なのか、専門性があるのか。

 いずれにしろ、これまでの潜水艦作戦とは全く別の任務、想像外の作戦に使われる可能性が高い。

 間もなく始まる沖縄作戦の重大な障害になりかねない。

 チーフの背筋が凍り付いた。

 とても見過ごせず、チーフは部下に命じた。


「宜しい、諸君、この潜水艦部隊の情報を集めるんだ。この潜水艦部隊の正体と目的、作戦目標、任務、所属潜水艦の性能を明らかにするんだ。他の業務と並行することになるが皆しっかりやってくれ」


「はいっ」


 チーフは以上の決断を下しミーティングは終ってから彼等は、この潜水艦部隊の情報を集めた。

 その結果、配属された潜水艦は一艦当たり平均一三〇名以上の乗員を有する大型潜水艦で、付属航空隊には四十機以上の航空機が配備されていることが判明した。

 これまでの記録を洗い出しての結果だ。

 見過ごされたのは、あまりにも規模が大きすぎる上に本土にいたこと、これまで主だった活動が行われなかったからだ。

 更なる情報を収集分析しようとしたが、出来なかった。

 沖縄作戦が迫り、他の情報分析、行方不明になった日本機動部隊の動向把握と、マリアナ以東ハワイ以西で通商破壊を活発化した日本潜水艦部隊の動向把握が優先となった。

 なによりこの潜水艦部隊の通信が殆ど入らなくなり、分析すべき情報が入らない状態となったためだ。

 一部では作戦行動に入ったため、無線封止を行っていると主張する者がいた。

 だが、沖縄上陸作戦が行われる直前であり、彼らに課された仕事量、沖縄の守備兵力と迎撃してくる部隊の把握のための作業は多く、とても不確かな部隊の精査に力を入れる余裕はなかった。

 そのため、この情報は合衆国海軍の少数の部隊に参考情報として送られ、その時が来るまで、この潜水艦部隊が作戦を実行した時まで活用されることは無かった。

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