謎の潜水艦部隊

 部下が見つけ出した日本海軍の異常な潜水艦部隊、連合艦隊司令部直属部隊の報告にチーフは考え込む。

 これまで米海軍の一番の脅威が日本機動部隊と活動中の潜水艦だったため、情報収集の優先順位からこの潜水艦部隊が漏れたのは仕方ない。

 発見された潜水艦部隊のこれまでの動きを見る限り、前線投入されておらず、これまで戦局を左右する恐れは無かった。

 だが改めて指摘されると、この部隊の異常性が際立つ。

 規模が大きいし、編成されてからマリアナ、フィリピン、硫黄島と戦局が大きく動いているのに出撃した様子もない。

 勿論ダミー部隊の可能性もあるし、実験部隊の可能性もある。

 だが、いずれにしても部隊の規模が大きい。

 本来なら、三隻か四隻程度。なのに戦隊規模の十隻は多すぎる。

 戦隊より格下の潜水隊と名乗る。

 これも小規模部隊と考え発見が遅れた原因だが、判明すると余計に不気味だ。

 そもそも何の為に作られたのか、が分からないのが気になるし、不気味だ。

 チーフはこの潜水艦部隊の正体が気になって仕方なくなった。


「本土防衛用の潜水艦部隊でしょうか」


 他の部員が意見を口にした。


「日本海軍が防衛用の潜水艦部隊を編成するだろうか。それも本土近くでの戦闘を想定して作るとは思えない。それも専用のタイプなど」


 二年前という数字と部隊の動きから何らかの任務を帯びた専用の潜水艦を建造したのは明らかだ。

 だが、防備用のそれも本土の防衛用の潜水艦というのはあまりにも異常だ。


「日本海軍の潜水艦戦備は混乱しています。そのような考え方で作っていた可能性も」


 確かに、日本海軍は専門任務用の潜水艦を建造したがる悪癖がある。

 任務を達成できる高性能の艦が出来上がるが、タイプが増えすぎて、建造と整備、特に人員の教育に多大な支障が出る。特に海に潜る特殊な能力を持つ潜水艦では致命的だ。

 早期にこの過ちに気がついた米海軍は、程々の性能、専門に作られた艦ほどではないが七割方達成できる平凡な潜水艦を一タイプ大量に建造することで、解決していた。

 結果、日本海軍のように派手な成果を上げはしなかったが、通商破壊や哨戒、パイロット救出、偵察などありとあらゆる海域で多様な任務をこなしている。

 現に、戦中の日本も、潜水艦の成果と戦訓、航空機及び対潜水艦兵器の技術向上によりタイプ数を極力減らしており戊型潜水艦の大量建造を行い成果を上げている。


「だとしても二年も前だぞ。建造にはそれ以前から行う必要があるから計画自体で三年以上は掛かかる。その時、本土や沖縄での戦闘など想定するだろうか。しかもソロモンは仕方ないとしても時期的にマリアナ、フィリピンと出撃する機会はいくらでもあった」


 部下達も異常性に気が付き、発見された潜水艦部隊について議論を始めていた。


「本土防衛用の潜水艦部隊を編成し始めたのはここ最近だ。その部隊とも違うようだが」


「それに本土防衛用なら何故リンガまで行く。燃料輸送だとしても潜水艦が行くとは考えられない。しかも本土防衛用の潜水艦だぞ。非効率だ」


「リンガに移動していると聞いたが規模は?」


「当時その潜水艦部隊に配属されていた六隻全てです。日本に帰還したときにさらに潜水艦が四隻配属されました。今現在は合計十隻で編成されています」


「何故連中はリンガに移動したんだ」


「不明です」


「インド洋での潜水艦作戦に従事するためでは? あるいはドイツへ向かう途中だったのかも」


「じゃあ、何故インド洋に出撃しない、インド洋なら出撃しても十分に成果を上げられる」


 インド洋は遠く離れておりアメリカ海軍は部隊を送っていない。

 イギリス海軍の縄張りだが、彼らは日本海軍相手に負けている。

 日本の潜水艦だけなら彼らでも相手に出来るが、機動部隊相手では歯が立たない。

 護衛を機動部隊で仕留められ後、無防備になった船団を日本の潜水艦は容赦なく襲撃する。

 その脅威と猛威は大西洋のUボートの比でではない。

 大西洋に比べて日本海軍の配備隻数が少ないのに連合軍がインド洋で大きな被害を出している理由だった。


「日本に帰投したのはいつだ」


「四月二〇日に撤収命令が出ています」


「マリアナ奪回戦の前だな。我々の反撃で日本本土が攻撃された時期ではないか」


「防衛の為に呼び戻したのでは?」


「潜水艦を本土から離れたリンガからわざわざ呼び戻すか?」


「他に帰還させる理由があるのか?」


「そもそも通常の潜水艦は鎮守府や各艦隊へ配属だろう。何で連合艦隊司令部直属なんだ」

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