給油潜水艦

 日本海軍は二式大艇という大型飛行艇の開発に成功した。

 その長大な航続距離を行かし太平洋各地を飛行している。

 しかし搭載燃料には限りがある。

 そこで日本海軍は潜水艦による大艇への給油を考えた。

 密かに無人の環礁に補給用の潜水艦を送り込み、飛来した二式大艇に補給を行い、米軍の拠点を偵察襲撃するのだ。

 考えは見事成功し四二年に大艇による第二次真珠湾攻撃を成功させている。

 その後は米海軍の警戒が厳しくなったがエスピリシスサットなど、太平洋各地を偵察、襲撃している。

 米軍は、補給用潜水艦を抑える為、無人の環礁へ艦艇を派遣せざるを得なくなった上、後方の基地にも迎撃部隊を配備するなど、多大な負担を強いられている。

 日本軍へ全力を出せない理由の一つが二式大艇への警戒のための後方への兵力配備による分散だった。

 だからこそ情報部も潜水補給部隊の位置情報把握に力を入れている。

 新たな潜水補給部隊の活動など看過できない。

 しかし、部員は首を横に振った。


「その部隊とも別です。連絡を取り合う飛行隊も大艇部隊ではなく艦載機部隊です。それと不思議なのはこの部隊が結成以来一年ほど経つのに未だ出撃していないことです」


「何? 本当か?」


「はい。初期は流石に二隻ほどの少数でしたが、その後二年の月日を掛けて一〇隻前後にまで増えています。しかも最近新たに二隻加わるようです。ですが、その間一度も出撃していません」


 幾ら戦争前から戊型潜水艦を建造し一〇〇隻もの数を投入している日本海軍でも広い太平洋では数が足りない。

 ソロモン以降、特にマリアナ沖海戦以降の日本軍は劣勢に立たされている。総力戦の時代であり、使える戦力は全て前線に投入する様な状況だ。

 なのに貴重な一〇隻もの潜水艦を前線に投入しないのはおかしい。

 特にマリアナ諸島のB29の補給物資を輸送する船団への攻撃は日本海軍にとって最重要の任務になりつつある。

 その作戦にさえ投入されないのはおかしい。


「編成間もないのであれば、また戦力が少ないのであれば出撃はありませんが、後から潜水艦を追加され錬成が終わったと思われる期間を過ぎてもまだ出撃していません」


「潜水艦の錬成部隊という可能性は?」


「ありません。ここに所属していた潜水艦が余所へ配属された形跡はありません。それにそのような任務であれば第六艦隊第一一潜水戦隊があります」


 日本海軍は新造の潜水艦を全て第一一潜水戦隊に配属させ訓練を受けさせていた。


「この部隊の潜水艦も例外ではなく、第一一潜水戦隊を経てからこの潜水艦部隊へ移っています。訓練用の潜水艦も呉鎮守府付ですから連合艦隊直属は異常です」


「確かに妙だな。しかし、どうして今まで気が付かなかった」


「この部隊は頻繁に識別符丁を変えていて追跡が困難でした」


 部下は理由を述べた後、報告を続けた。


「また拠点の呉から殆ど動かず、B29の空襲が始まってからは日本海側に移っています。年明けに一時航空隊を含めリンガに移動しましたが、四月には撤収してまた日本海に戻っています。そのため注目度が低く、重要監視対象になっていませんでした。沖縄侵攻作戦に備えて情報の洗い直しを行っている時、潜水艦乗組員の異動を追っていたら一部の乗員がこの部隊に異動しているのを偶然見つけて調べた結果です」


 第二次大戦での通信、特に長距離通信は殆どがモールス信号だ。

 トンツーの信号を組み合わせて送るのだが、人によって叩き方の特徴が違う。

 これはどうしようもないことだが、通信諜報では通信員一人一人を割り出す材料になる。

 そして、その通信員がどの艦に配属されているか、を記録しておけば、その艦が何処にいるか分かるし、全く別の艦から発信しているなら転属か新造艦へ送られたことが分かる。

 今回は、新部隊を発見するのに役に立ったわけだ。


「確かにそれだと見つけにくいな。だが、どうしてそこまで隠した上に、使っていない」

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