輸送潜水艦
二年前から編成され一度も実戦参加していない潜水艦部隊。
それも連合艦隊直属。
潜水艦が重要となり一隻でも必要とされるこの時期に後方で待機させられていることに情報部の一同は不気味さを感じた。
「……潜水艦による特殊部隊輸送、奇襲上陸用の部隊か」
チーフは自分の推測を尋ねた。
かつて米海軍は四二年八月に日本軍占領下のマキンを大型潜水艦二隻で二二二名の海兵隊を輸送し奇襲した。
目的だった対空砲や暗号書、捕虜の獲得は出来なかったが、一時的に島を占領することに成功している。
しかし部下は首を横に振る。
「その可能性も少ないと思います。奇襲上陸用の潜水艦部隊は既に用意されており活動中です」
自分たちが出来た同じような作戦を日本海軍も行っている。
貨物一〇〇トンか陸戦隊二個小隊一一〇名と大発二隻を収容できる潜水輸送艦伊三六一型を作り、孤立した島への補給および脱出、後方への工作員の派遣に日本海軍が使っている事は既に彼等は知っていた。
特に中野部隊によるソロモン海域での襲撃は、手ひどいものだった。
完全に制圧したと思った島に一個中隊二〇〇名の特殊部隊が襲撃を仕掛け、守備隊が全滅。
慌てて周辺から増援を送って奪回したが、ジャングルに逃げ込んだ中野の掃討作戦で長期間、部隊が僅か二〇〇名で一個師団が動けなくなった。
結果、反攻作戦のスケジュールが遅れることとなった。
同じ過ちは二度と繰り返したくないため、潜水輸送部隊の行方を情報部は常に追っていた。
最近は、他の潜水艦への補給、孤立した孤島への補給と救援任務に使われているようだが、油断できない。
新たな奇襲作戦用に建造して配備した可能性もある。
「今回、発見した潜水艦部隊はそれとは全く別です」
発見が遅れた理由は、潜水輸送部隊と誤認したことも原因だった。
日本海軍は秘匿性を高めるために新たな潜水艦部隊と潜水輸送部隊の符丁交換――通信の呼び出しコード、メールアドレスにあたる部分を交換して、偽装したりしていた。
しかも囮用の偽部隊、符丁だけで実態のない部隊のように見せかける事も行ったいた。
おかげで、二年間も気がつかなかった。
「新たな潜水輸送部隊では?」
「輸送部隊ではないようです。この潜水艦部隊は陸上の航空隊と頻繁にやりとりをしています。しかもその航空隊は潜水艦部隊と一体となって運用されているようです」
発見の切っ掛けはそこだった。
幾ら偽部隊でも航空機まで動員するのはおかしい。
「日本軍の潜水艦なら戦前から航空機を運用しているだろう」
世界の中で日本海軍ほど潜水艦に航空機を乗せる事に情熱を注ぐ海軍はない。
他の海軍は飛行機を乗せるスペースを確保するため船体が大型化する上、航空関連設備は潜水艦の行動にとって、潜行中使用できないのでデッドウェイト、デッドスペースになる。
使うにしても浮上が必要で潜水艦最大の能力である隠密性を、潜航できる能力を損なってしまう。
そんな苦労をして乗せても潜水艦が航空機を運用するのに著しい制限、発進収容時に敵に見つかりやすい。
また外洋だと波が高く小型機の着水困難、搭載できる飛行機が小型機のため性能不足で目的を達成しにくい、などがあり活用しにくいので早々に放棄していた。
しかし日本海軍は少ない隻数で広大な太平洋をカバーし戦略的な要地を偵察するには潜水艦搭載航空機が最適と判断。
いまだに潜水艦への航空機搭載を止めていない。
隻数を増やすため航空機搭乗員の確保が難しいため少数だが、航空機搭載潜水艦の建造は――戦前からの計画の惰性もあって続けられていた。
実際、後方の偵察や爆撃を行い、被害は山火事程度だったが米本土空襲にも成功している。
「通常の潜水艦程度なら、航空機搭載潜水艦も含めて第六艦隊に配属されます。わざわざ連合艦隊司令部が指揮下に置く必要はありません。しかも機数が少ないのにわざわざ一個潜水隊と航空隊を一体化しているのも変です。艦載機搭載潜水艦でも一隻に一機だけで第六艦隊の付属です」
「確かにそうだな。特殊部隊輸送ではなく大艇の給油用潜水艦か?」
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