嵐作戦
米海軍情報部定期ミーティング――異様な日本潜水艦部隊
沖縄戦開始前 米海軍情報部会議室
「よし、日本軍に対する無線諜報の報告はこれでいいかな」
アメリカ海軍情報部の定期ミーティングが終わろうとしていた。
通常ならこれで終わるがこの日は部員の一人が手を上げた。
「あの、一つ報告が」
「なんだ? 言ってみろ」
手を上げた部下にチーフは発言を許可した。
「日本海軍の一部の潜水艦部隊に異常な動きがあります」
「報告しろ」
チーフは報告を続けさせた。
ナチスドイツの降伏によりヨーロッパ戦線は終結した。
ソ連軍との対峙のため兵力を一部残さなければならないが、ヨーロッパにいる米陸軍部隊の大半は帰国予定。
本土で休養した後は唯一戦闘を継続する交戦国、大日本帝国。
その本土侵攻作戦に彼等は使用される予定だ。
年末か来年の年頭に彼等は太平洋を横断し出撃予定地点まで船団で移動する。
その時、最も恐ろしいのは潜水艦による攻撃だった。
未だ活発に動く日本機動部隊も恐るべき相手だが、マリアナ奪回戦以降、大きな損害を回復するためか動きは鈍くなっている。
だが、単艦で長大な航続力を誇り太平洋の広大な海域を、最近は少なくなった時に米本土近くでさえ船団襲撃を行う日本軍潜水艦部隊は神出鬼没だ。
装甲の無い輸送船と非力な護衛艦しかいない輸送船団にとって彼らの持つ酸素魚雷恐るべき敵だ。
特に、ロングランス――長射程の魚雷、それも無航跡の魚雷を放たれれば接近に気が付く間もなく沈められる。
しかもドイツから音響追尾魚雷を提供されてそのコピーを生産し実戦投入してから、被害は更に大きくなっている有様だ。
潜望鏡も上げずにいきなり魚雷を遠距離から発射され、護衛艦を含めて船団が全滅したという事件も起きている。
以上のことから日本軍潜水艦の動きに神経を尖らせたのはチーフとして当然だった。
寧ろ早く報告しろと部下に視線で急かしたほどだ。
「はい、二年ほど前から敵の連合艦隊に新しい潜水艦部隊が編成されていました」
「潜水艦部隊は昔から居るだろう」
戦前から帝国海軍は、潜水艦を集中運用するための艦隊を編成しており、不思議ではない。
そもそも、潜水艦は他の水上艦と特性が違うため、専門の部隊を編制して集中運用するのが基本であり、世界各国で行われている。
米海軍でも例外ではない。
「はい。ですが、日本海軍の通例ですと連合艦隊司令部の下に実戦用の潜水艦が配属される事は無く、遠洋へ行く大型潜水艦は第六艦隊、近海防衛用の小型潜水艦は各方面艦隊か艦隊に配属されています。しかし、この潜水艦部隊は連合艦隊司令部直轄下にあります」
「何故、直轄の潜水艦部隊だと?」
「補給に関しては第六艦隊の支援を受けています。補給品人員も魚雷も潜水艦用のもので数は明らかに実戦用の潜水艦の数です。それらが第六艦隊から送られているのは確かです。しかし、命令系統は連合艦隊司令部が上位司令部です。これは通信のやりとりから確かです」
通信文は発信元と宛先を付けるのが、何処の軍隊でも行われる書式だ。それを利用して傍受した敵の電文からどの部隊が、何処の部隊の指揮下に入っているか探り当てることが出来る。
通信諜報の常套手段と言えた。
そして、部隊の指揮系統を見ればその海軍の戦力や考え方が分かる。
通常日本海軍は潜水艦を第六艦隊に集中配備する。
一時期作られた防衛用の小型潜水艦は別だが、主に方面艦隊や前線の根拠地に配備するだけだ。
連合艦隊司令部が自ら、潜水艦を保有することは通常ない。
そもそも連合艦隊は複数の艦隊を指揮するために編成されており、少数の潜水艦を保有するなど異例だ。
「何か特殊な作戦を行う部隊か? 例えば戦略偵察とか」
「その可能性は低いと思います」
「どうしてだ?」
「隻数が多いのです。その潜水艦部隊は現在一〇隻前後の潜水艦が配属されています。偵察に使うにしては明らかに多すぎます」
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