日英艦の違い

 世界中に植民地を持ち、各地へ迅速に派遣する事を考えていた英国は、排水量の多くを居住性にあてていた。

 一方、日本本土以外守るモノがない日本海軍は一回の決戦の為に、根拠地から出撃する事を前提にしていたため、排水量の多くを武装と防御につぎ込んでいる。

 戦前、ジョージ6世戴冠記念観艦式に参加した重巡足柄がイギリス紙から「餓えた狼」「我々は本物の軍艦を見た」と言われるのも当然だった。

 その足柄より後に建造され、戦時補充艦として建造された伊吹を相手にするには分が悪かった。

 重巡ノーフォークは条約型重巡としてはよく出来ている。

 キング・ジョージ五世級より速力が速いこともあり、ヴァンガードに追随出来た。

 だが、条約明けに設計された改鈴谷級重巡は二〇サンチ連装砲五基、魚雷発射管四連装四基の重武装を施された獰猛な艦だった。

 北極海でシャルンホルスト相手に砲撃戦を繰り広げた歴戦の艦も、日本海軍相手には、分が悪い。

 主砲口径が同じでも連装四基と二門も少ない上に、実戦経験も違った。

 ソロモンで戦いマリアナ、フィリピンと激戦を生き残った乗員が多数乗り込む伊吹の方が、戦闘力に優れていた。

 しかも重巡の数では、日本海軍の方が多く圧倒されていた。

 駆逐艦では更に差が広がった。

 英国は海の状況を把握させるため、あるいは劣悪な環境が乗員を鍛えるという信念の元、窓どころか壁さえない、波風吹きすさぶ露天艦橋だった。

 収まりつつあるとは言え台風の暴風圏、凍結する北大西洋よりましとはいえ嵐の中で戦うのである。

 艦橋の指示が波風に遮られて、伝達が上手くいかない事例が多々発生した。

 戦前の艦隊型駆逐艦として建造されたため、一二サンチ連装砲三基の主砲は日本の艦隊型と互角の戦闘力を持っていても、指示が届かない状況では無意味だった。

 圧倒的な連携を見せる日本海軍水雷戦隊前に、イギリス駆逐艦はまた一隻、また一隻と撃破され、沈んで行く。

 それでも彼らの奮闘は無駄ではなかった。

 思わぬ部隊の出現に日本艦隊による慶良間への突入は一時中断する。

 ヴァンガードの副砲による弾幕が接近を阻んだ事も大きい。

 魚雷も、先ほどの米艦隊との交戦で殆ど撃ち尽くしており、ヴァンガードへの攻撃は殆ど不可能となった。


「劣勢か」


 艦橋から新たな敵、イギリス艦隊の出現を見た佐久田は呟いた。


「どうしますか」


 生き残った士官が訪ねた。


「勿論、邪魔する敵艦は排除しなければならない」


「しかし、本艦は座礁しております」


「座礁しても傾斜は許容範囲内だ」


 五度以上の傾斜があると砲弾を揚げることが出来なくなり、砲撃不能となる。

 座礁の際に、発砲不能ならないよう佐久田は慎重に操艦させ、傾斜を最低限に抑えた。


「砲撃は可能だ。むしろ波の動揺がない分、射撃は正確に出来るハズだ。一番砲塔、二番砲塔。砲撃用意!」


 すぐさま準備が整う。


「砲撃準備完了!」


「撃て!」


 再び四六サンチ砲が火を吹いた。

 佐久田の指摘通り、座礁した大和の砲撃は正確だった。

 六発しか放たれなかったが、その内、二発がヴァンガードに命中する。

 一発は信管の不良により着弾と同時に爆発する。

 本来なら被害はなかったハズだったが、イギリス式の防御構造、戦時急造のための省略により主装甲の後ろに断片防御用の装甲板がないため、主装甲が弾着の衝撃で裏面が砕け、艦内に多数の負傷者を出した。

 そもそも、垂直防御を優先したため、垂直防御は世界有数の厚さだったが、水平防御は薄い物だった。

 四六サンチ砲弾を防御できず、艦内で爆発。

 機関室の一つを破壊し、ヴァンガードを戦闘困難な状況に追い込んだ。

 発電機がやられ電源が落ちたヴァンガードは射撃能力が著しく落ちだ。

 そこへ態勢を立て直した水雷戦隊が襲いかかった。

 それまでヴァンガードの副砲射撃によって耐えていた英国艦隊は要を失って、大きく崩れる事となった。

 大和からの攻撃を避ける為、ヴァンガードは転舵。

 追い打ちを掛けるように日本の重巡と水雷戦隊が襲撃を始める。

 キング・ジョージ五世級戦艦がやってくるにはまだ時間が掛かる。

 最早、日本海軍を止める術はないかと思われた。


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