テキサスの覚悟と二水戦の奮戦
「なに!」
雨粒が打ち付ける中、有地達が振り返りると二番艦のテキサスが正面に現れた。
「すぐ近くじゃないか! 見張は何をしていた!」
士官の怒号がしたが、無理も無かった。
先ほどの至近距離での砲撃による強烈な発砲炎で一時的に暗順応が失われた上、砲撃による衝撃波の嵐で見張が行動不能になっていた。
むしろ、ほんの数分で視力を回復しテキサスを見つけたことを、最善の努力をして報いたことを褒めるべきだ。
全てが手遅れだったとしても。
「ぶつかってくるぞ!」
テキサスの艦長は優れた判断力を示した。
ニューヨークが衝突回避のため、転舵したのが隙となり撃破されたのを見て、ラミング、衝突を決意。
自分から突撃する事にした。
「衝突警報! 衝撃に備えろ!」
有地が叫んだ直後、テキサスが金剛の左側面に衝突した。
衝撃で金剛は大きく揺れ乗員達は吹き飛び、艦内は阿鼻叫喚となる。
だが、本当の被害は、この後だった。
衝突直前、テキサスの艦長は全速後進を命じていた。
三万トン以上の巨体がトップスピードの状態からすぐに後進は出来ず、金剛の船体に深く食い込んだ。
金剛への衝突でテキサスの突進が止まった直後、ようやく後進が掛かった。
食い込んだテキサスの艦首が、金剛から離れていき、出来た破孔から海水が金剛の艦内に流れ込んでいく。
「老いたか、敵の闘志を侮るなど、あってはならないことだ」
有地は、荒波以外の理由によって傾き始めた金剛で自分の行いを悔いると共に適切な命令を下した。
「面舵一杯! 戦列を離れよ。しかる後、総員退艦! 直ちに離脱せよ!」
いかに第二次大戦殊勲艦の一角を占めようと、ビッカース社の設計が優れていたとしても装甲を食い破って大浸水を起こされては浮かんでいられない。
嵐の海に出ることになるが沈没船に留まるより良い。
「長官! 直ちに退艦を!」
「最後でいい。それにまだ、終わっていない。見届けていない」
先ほどぶつかってきたテキサスが徐々に離れて行き左後方へ流れていく、視界から消えそうになった時、爆発が起きた。
後続の榛名が、テキサスを捉え砲撃を浴びせたのだ。
同時に、周囲の駆逐艦がテキサスに殺到し、魚雷攻撃を浴びせていく。
そのため、テキサスは体当たりした相手より、早く沈没した。
戦艦を撃沈した後、駆逐艦達は四方に散り、残敵がいないか警戒する。
そして、残っている敵艦を発見すると襲撃行動へ移っていく。
また、榛名も周囲に敵がいないことを確認すると大和に向かって転舵していった。
「良くやった……これで大丈夫じゃ。水雷戦隊は不滅じゃ」
自身が半生をかけて愛し、鍛え上げた水雷戦隊の活躍と能力を見て有地は満足した直後、金剛は沈没した。
荒天の中の海戦ため、救助作業は難航し、救助できたのは全乗員の一割程度しかおらず、有地中将はその中に含まれていない。
だが、これで事実上、米軍の抵抗勢力は、嘉手納への航路を遮る存在はいなくなった。
同時に生き残り指揮権を継承した二水戦司令官古村少将が矢矧より命じた。
「残存艦艇は、全艦、嘉手納泊地へ突入せよ」
「閣下! 日本艦隊が迫ってきています。退避を」
「沖縄に日本艦隊はやってこれないのではなかったのか」
海軍の連絡将校の報告にパットンは、怒りに似た感情をぶつけた。
「空母部隊は壊滅。戦艦の迎撃も撃破されました。敵は嘉手納に突入してきます。急いで退避してください」
「ダメだ。今後退したら、日本軍の反撃を背中から受ける形になる。被害が続出する」
日本艦隊の攻撃に合わせて第三二軍も反撃を始めており、守るだけで精一杯だ。
この状況で撤退などすれば、追撃を受け、壊滅してしまう。
「ですが、嘉手納の泊地と物資の揚陸拠点を失う事になります。大損害は免れません。直ちに退避を」
「逃げると言っても何処へ逃げるのだ」
「島の北部へ。本島の北部は確保出来ています。退避を」
「ゲリラの掃討に苦戦しているだろう。それに撤退途中で嘉手納の前を通ることになる」
「ですが、危険です」
「ふん」
パットンは鼻で笑うと指揮所から出て行った。
「車を回せ、嘉手納へ向かう」
「何故」
「それほど日本艦隊が凄まじいのならこの目に焼き付ける。各部隊は守備位置を守り通せ」
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