金剛 対 ニューヨーク
ほぼ同世代の金剛とニューヨーク級は共に主砲は一四インチ――三六サンチ砲クラスだ。
だが、相違点は多い。
元は巡洋戦艦として英国で設計された金剛は快速だが、防御力が弱い。
度重なる改造で――新造時とは別種と見られるほど大きく変わった程の徹底した改造は装甲板を増加させ、高速戦艦として生まれ変わらせた。
それでもスマートな船体は防御が足りない。
一方のニューヨーク級はアメリカ戦艦らしく防御力重視だ。
特に艦の舷側は、ユトランド海戦前に設計されたため分厚い。
至近距離の戦いとなった、このたびの戦いでは互いの砲弾がほぼ水平に飛び、横からの殴り合いとなる。
防御力が低い金剛には不利だ。
砲門数も金剛の連装四基、八門に対してニューヨーク級は一基多い連装五基、合計十門。 攻撃力で不利だ。
だが、解決策はある。
「回頭! 舳先を敵艦に向け突っ込め!」
有地中将は敵へ艦首を向け突っ込むように命じた。
T字戦法とは真逆、敵が全砲門を討てるのに対して金剛は艦首の四門しか撃てない。
だが、舳先を向けたことで優位な面もある。
投影面積が狭くなる。
全長より全幅の方が狭い、
高速を出すため、元々細い金剛の正面は小さく見える、敵の砲弾が命中しづらいのだ。
一方、ニューヨーク級は横っ腹を見せているため、大きく見え照準を付けやすい。
有地は、砲門数より命中弾数で勝負を挑んできたのだ。
その思惑は上手く行き、目に見えて金剛の被弾は低下。
逆にニューヨーク級への被弾は増えた。
金剛の意図を察したニューヨークは右に転舵して、金剛に向かう。
「面白い! 向かってくるか!」
金剛とニューヨークは真一文字に、互いに舳先を向け合い突進していく。
近づくと互いに主砲の発砲を停止した。
被弾して操艦不能になったら正面衝突を起こすからだ。
「米軍にも南雲みたいな奴がいるとはな」
戦前の大演習で有地が山城に乗っていた時、偶然にも対抗部隊である軽巡神通が進路上に現れ、正面から接近してきた。
互いに真っ正面から向き合い探照灯を相手に当て続けて突っ込んでいった。
金剛は三〇ノットの高速戦艦、一方鈍足とは言えニューヨークは二〇ノットは出せる。
相対速度五〇ノットで双方は急速に距離を狭める。
「……」
金剛の操舵手が、接近に恐れをなし僅かに舵を左に回す。
「回すな」
有地が操舵手に振り返らずに言う。
「ここで敵に横腹を見せると砲撃を食らう。先に転舵した方が負けだ。正面から突っ込め! 断じて行えば鬼神も退く!」
「は、はいっ!」
一度予備役に回されたとはいえ有地は根っからの海軍軍人、水雷屋だった。
躊躇無く乗艦を敵艦に突っ込ませる。
その勢いに幕僚も、艦長以下金剛の乗員も飲まれた。
金剛はためらうこと無く一直線に向かう。
しばし、緊張で艦内は沈黙するがすぐに破られた。
ニューヨークが突如左に方向転換を始めた。
「もらった! 面舵一杯! 主砲斉射用意! 左旋回九〇度! 照準整い次第打て!」
「はいっ」
ようやく金剛は右に回頭した。
ニューヨークは発砲するも、金剛が急旋回したため狙いが逸れて全弾外れる。
その間に金剛は接近。
真横にニューヨークを捉え砲撃した。
「撃て!」
金剛の全砲門が火を噴いた。僅か百メートルほどの距離で砲撃のため発砲も着弾もほぼ同時。衝撃波が両艦の間で反射し合い激しい振動をもたらす。
「うおっ」
金剛の全てのガラスが割れ、ガラスの欠片が艦橋にいた全員に降り注ぐ。
「荒々しかったな」
ガラスを振り払い、雨が打ち付ける中、有地は言った。
振り返ると被弾したニューヨークが離れるのが見えた。
至近距離のため、爆発こそ無かったが、砲弾の運動エネルギーにより上部構造物は貫かれ廃墟となっていた。
最早、戦闘能力は無い。
ニューヨークは急速に離れていくが、追いかけはしなかった。
二水戦の駆逐艦が、金剛に随伴している駆逐艦がトドメを刺すべく接近し至近距離から魚雷を発射してトドメを刺した。
金剛と榛名の間をすり抜ける曲芸のような動きだったが、戦前有地に夜間襲撃――星明かりも無い荒天の中、戦艦戦隊や重巡戦隊の間をすり抜ける事をやってきた上、ソロモンの激闘で磨いた腕ならば簡単だった。
「中々骨があったが、少し足りなかったな」
次々、魚雷を受け、沈んで行くニューヨークを見て有地は呟く。
「あのまま正面からぶつかれば良かったものを。惜しいな」
もし自分の部下だったら見込みがあると思ってしごいただろう、敵艦の艦長を思い有地は呟いた。
激戦の後の感慨だった、それが致命傷となり、見張りの報告にすぐ反応できなかった。
「左舷前方より敵艦接近! 間近です!」
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