大和の砲火止まず

「流石に一方的にとは行かないか」


 大和からの反撃が強くなりインディアナのニミッツ元帥は呟いた。

 艦橋近くで砲弾が炸裂しダメージを与えたと思ったが、むしろ勢いを増している。

 見たところ大和というモンスターは日本軍の魚雷を受けた――米軍に魚雷を撃てる艦は無いので魚雷は全て日本軍のものだ――ようだが、大きなダメージを受けているようには思えない。

 猛烈な反撃が、その証拠だ。

 艦尾に一発受け、更に艦首にも被弾している。

 いずれも舷側でかすり傷程度。

 今も主砲斉射を行っている。

 だが、何時命中するか分からない。

 特にインディアナ艦長は気が気ではなかった。

 自分の艦が傷つくのはまだ我慢できる。戦うために来たのだし状況が切迫すれば命さえ差し出すことは覚悟している。

 乗員も出来るだけ助けたいが、戦闘で発生する支障は仕方ないと割り切っている。

 だが、最高司令官であるニミッツ元帥が戦死したらこの戦争に対する影響が、特に海軍の立場が悪くなる。

 碌でもない人間が司令長官になることは避けたい。

 命中しないで欲しいと思っていたが、現状米軍の最高戦力であるインディアナを大和が見逃すはずが無かった。

 すぐにインディアナに命中弾が発生する。

 砲弾は第一砲塔の付け根に命中。

 揚弾筒内の装薬に引火して誘爆を起こし、砲塔内の全員を戦死させた。

 だが、ダメージコントロールに成功し弾薬庫注水により誘爆は回避できた。

 しかし戦闘力が三分の二に低下。

 更に船体中央部に命中。両用砲を二基破壊したのは大した事ではなかったが、通信室が破壊されて仕舞った。

 通信装置が破壊されたことにより旗艦としての能力を喪失したのがニミッツには痛い。

 そして、艦尾の命中弾が舵の機械室を破壊し、操舵不能となった。


「元帥、本艦は旗艦能力を失いました」

「……了解した」


 ニミッツは頷いて命じた。


「各艦に発光信号で伝えたあと、敵戦艦に砲撃を続けよ」


「本艦は行動不能です」


「まだ主砲は二基残ってる。日本軍を防ぐ為に盾になれ」


「舵が故障しています」


「両舷の機関は無事だろ、左右スクリューの回転数を調整して舵を取るんだ。なんとしても日本軍の慶良間到達を防げ。諸君、戦いはこれからだぞ」


 勇ましいニミッツの言葉にインディアナ艦長は閉口したが、周りの戦意は高まった。

 インディアナはさらに残った砲塔で斉射を加え反撃し大和に命中弾を与えた。

 だが、反撃を受け船体中央部で大火災を発生させる。

 それでも更に斉射を行い反撃したことは、米軍のみならず日本軍からも感嘆させた。

 しかし、そこまでだった。

 機関室に浸水が発生し、速力が低下した。また、舵が故障したため、針路がズレ、陣形を維持できなくなった。

 そのため続行していたアラバマがインディアナを追い抜き先頭に立った。

 インディアナの奮戦を見て、またの損傷を見て、先頭に立つべきと判断したからだ。


「長官、被害が拡大してます。陣形も維持できなくなりました。離脱許可を」


「……許可する」


 ようやくニミッツは後退を許可し、インディアナは離脱した。

 誰も卑怯だとは思わなかった。

 それだけの事をインディアナはニミッツはやり遂げたのだから。

 その分、被害はアラバマに集中した。

 大和の次の標的とされ、距離が狭まったこともあって真っ先に艦中央部に命中弾が発生。

 艦橋に詰めていた艦長以下、艦首脳部を全滅させた。

 それでも機関と砲塔は健在だったため、砲撃を続行。

 大和に二発の命中弾を与えた。




「大和が危険だ」


 大和を離れ別働隊として行動していた第二艦隊司令有地中将は大和が多数被弾したのを見て危機感を抱いた。

 つゆ払いが第二艦隊の役目なのに残敵に大和を攻撃されたのは痛恨事だ。

 悪天候で見逃したのは仕方ないとはいえ、艦隊の目となるべき自分達が見落とし、味方を聞きに陥れてしまった。

 その責任は負わねばならない。


「大和援護に向かう。右へ回頭!」


 すぐに乗艦する金剛で大和に向かおうとした。


「左舷に発砲炎!」


「何!」


 警戒の為、右翼側に配置されたニューヨークとテキサスの砲撃だった。


「反撃しろ!」


 通常なら金剛が優速を以て引き離し翻弄するところだが、悪天候で双方の有効射程に入っていた。

 そのため正面からの殴り合いとなった。


「拙いな」


 激しい砲撃戦に有地は口元を引きつらせた。

 

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