大和の戦い
七万トンの船体が嵐の中を突いて突進する。
それを迎撃するようにアイオワ級戦艦群は迎撃の砲火を浴びせる。
しかし、大和、いや佐久田は巧妙だった。
取舵、左へ針路を変更し前方を右へ横切るアイオワ級戦艦群の後方へ回り込むように動く。
戦術的に妥当だった。
T字を受け敵艦から攻撃を受けているのであれば、敵艦の後ろに向かって突進しT字を崩しつつ、敵艦隊の後方から攻撃を行う。
真っ当な戦法と言えた。
だが、これにアイオワ級戦艦群は動揺した。
戦術的な意味は理解しているが、それ以上に大和が採った針路が問題だ。
大和の新たな針路の先、南西方面には慶良間諸島が、攻略船団が避難し停泊している泊地ある。
突入されたらレイテ級の大損害いや大惨事だ。
アイオワ級戦艦群は大和の行く手を遮ろうと、大回頭を始めた。
それこそ大和が狙っていた瞬間だった。
回頭を始めたウィスコンシンに向けて大和は砲弾を一方的に降り注がせる。
遂にウィスコンシンは被弾し、第四機関室に命中。
海水が浸入し、沈黙した機関室の代わりに過負荷状態で燃焼していたボイラーが海水と接触し水蒸気爆発を起こした。
爆薬並みの破壊エネルギーが内部で発生したウィスコンシンは機関室の上側が大きく損傷し、船体にも多数の亀裂が発生。
浸水が発生した事により沈没した。
ウィスコンシンに続行していたミズーリはウィスコンシンの残骸を回避するため反対の右に舵を切り、回避した。
だが、直後に大和の砲撃を艦橋に受けてしまう。
船体に大きな損傷はなかったが、艦橋にいた幹部が多数戦死。
射撃指揮装置は勿論破壊され、砲撃不能。それでも各砲塔が打てる状態だったが、羅針儀と海図も失って回頭中ということもあり方位を見失った。
嵐で周囲の状況把握も出来ず、通信アンテナも破壊され情勢不明。
戦闘継続は不可能と判断し、そのまま戦場を離脱してしまう。
残った、イリノイは、素早く左へ回頭し回避したが、大和と正面から対決する事になる。
ウィスコンシンを仕留めた大和もほぼ同時にイリノイに狙いを付ける。
しかし、勝負は決まっていた。
波浪による動揺が少ない大和は正確な射撃を浴びせイリノイを圧倒。
船体が細いため揺れるイリノイの砲撃は散布界、砲弾が散らばる範囲が広く、狙いも定まらず、命中弾を得られない。
ようやく大和に夾差を得た時には、大和から致命傷となる一発が命中。
左舷側の装甲板が貫通し爆発によって破壊された上、水中弾による浸水も起こり、急速に傾斜が大きくなる。
しかも嵐の大波が打ち寄せ装甲板の破孔から大浸水を引き起こしている。
そこへ新たな砲弾が命中し炸裂する。
弾薬庫近くに命中したがすぐに注水し誘爆を防いだ。
しかし、各所に命中した砲弾が、火災を起こす。
すぐにダメコン班が出動し消火にあたる。
アメリカ海軍艦艇は他国に比べて乗員が多いが、これはダメコン要員を大勢乗せているためだ。
応急修理には人手が必要であり乗員数の多いアメリカ艦の場合、半分近い乗員がダメコンにあたる事が出来る。
そのため、米海軍の艦艇は打たれ強く沈没しにくい。
日本軍が撃沈と誤認する程損傷しても浮いて母港に戻り船上に復帰する事が度々発生していた。
だが、イリノイの損害は消火のため散水したため浸水量は増える一方だ。
浸水を防ごうとしても、押し寄せ艦内に侵入する海水は溜まる一方となり、イリノイは急速に傾斜を増して行き、遂に射撃不能となる。
それでも大和の砲撃は止まない。
遂にイリノイは戦闘不能となり総員退艦を発令したが遅かった。
大和の新たな砲弾が浸水箇所を増やし、ダメコン班が離れたため、浸水量は増える上に、隔壁も破られ、新たな区画に浸水が発生。
そこへ台風の大波が打ち寄せ、イリノイの船体をひっくり返し、転覆させた。
「敵艦、転覆しました」
「よし」
艦内では更に歓声が上がった。
モンタナ級に続き、アイオワ級を更に二隻沈められた。
類い希な戦果に喜びは大きい。
「周囲を警戒しろ」
伊藤の命令に従うものの、興奮は収まらず、浮き足立っていた。
そのため、大和は突如、左舷から奇襲を受けることになる。
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