長門の戦い
「敵艦撃沈!」
大和は爆発の光から、敵艦が誘爆し沈没したと確信した。
反撃がない事からも確実であった。
艦橋内では再びの敵艦撃沈、それもアメリカの最新鋭戦艦の撃沈に興奮し、歓声が上がる。
「敵艦撃沈を認む! 目標を二番艦へ変更!」
抑えつつも伊藤の命令が艦橋内に響き、喧噪は静かになる。
まだ、一隻を撃沈しただけで敵艦は残っている。
しかも米軍は態勢を立て直しつつあった。
旗艦が撃沈されたとはいえ、続行していた二番艦オハイオは当初の命令通り、そして探照灯で位置を示しているため目立つ大和に狙いを定め砲撃を開始していた。
三番艦のメインも大和に続行する長門に対して砲撃を行う。
同一目標を狙うとどの艦が撃った弾か判断できなくなるため、個別に狙うのが基本だ。
彼らは、モンタナが狙われている間に射撃データを採取し、大和と長門に砲撃を浴びせた。
モンタナから狙いをオハイオに移したばかりの大和は後手に回り、オハイオへ初弾を撃った時には、周囲に水柱が林立。
オハイオに大和は夾差される。
直後の砲撃で命中弾が発生した。
一発は第二砲塔の天蓋に命中するも、大和の装甲板により弾かれた。
続く斉射で、後部マストに被弾し、後部指揮所が完全に破壊される。
さらに一発が、第三砲塔、主砲塔の正面装甲、一番砲と二番砲の間に命中した。
だが、アメリカ海軍自慢の重量砲弾――スーパーヘビーシェルも大和の主砲弾直撃を想定した装甲を貫けず、爆発して仕舞う。
しかし、衝撃は激しく第三砲塔は三番砲を除いて射撃不能となった。
そして命中直前に放った大和の斉射が、オハイオを捉えた。
艦首に命中した一発が、舳先を破壊し、荒れている波をもろに受けることとなり、オハイオの速力が低下する。
なおもオハイオは砲撃を続け、第一〇高角砲塔とカタパルト付近に命中弾を与えたが、致命的なダメージにはならなかった。
大和の主砲がオハイオを捉えるも、此方も煙突付近と後部甲板の非装甲区画に命中するも貫通し、海面に飛び出て爆発しただけだ。
一方でオハイオの反撃で、後部副砲塔に命中弾が生じ、副砲弾薬庫に注水が行われる。
更に、舷側に命中弾が発生し、左舷外側の機関室に浸水が発生する。
状況的にはオハイオがやや有利だった。
そして、後方の長門は圧倒されていた。
就航直後こそ世界唯一の一六インチ砲搭載艦として世界最強とされビックセブンと褒め称えられた戦艦長門。
だがそれは二〇年以上も昔の話しだ。
軍縮条約中は戦艦の建造が事実上ストップし一六インチ砲搭載艦は建造されず――完成した他の艦は速力あるいは防御に何らかの欠陥があり長門が優位だとされていた。
しかし、条約失効後、各国がこぞって新戦艦を建造するようになるとその優位性は失われ、旧式艦となる。
同じ一六インチ砲ながら長門は連装砲四基八門。モンタナ級は三連装四基、一二門。
主砲の数だけで五割も違う。
さらに同じ一六インチでも米艦は砲身が五〇口径と長い上に砲弾も重たい。
実質的な戦力差は二倍以上であり、長門に勝ち目はなかった。
しかし、二十年という歳月が全てに不利なわけではなかった。
長年のデータの蓄積と経験。
特に主砲の射撃特性の面で長年、訓練で主砲を放ってきた長門には十分なデータが蓄積されており、初弾から命中弾を出すことに成功した。
まぐれではあったが、引き寄せるだけの練度と経験が長門にはあった。
だが、長門の幸運はそこまでだった。
流石に技術の進化により防御力が卓越しているモンタナ級はさほどの被害を受けず反撃する。
ポストユトランド海戦、遠距離砲戦を想定して防御が設計されている長門はメインの砲撃に耐えた。
だが、砲撃戦が長引くにつれ、命中弾が増え、徐々に被害が大きくなる。
第三砲塔が被弾し戦闘不能。
すぐに注水され誘爆は防いだが、艦内各所に被弾したため、大火災が発生した。
それでも砲撃は続けていたが、いずれ沈むのは誰の目にも明らかだった。
しかも、混乱から立ち直ったアイオワ級戦艦群が隊列を立て直し、速力を生かして大和の前方へ回り込もうとしていた。
新たに三隻の砲撃を大和は受けることとなり、危険な状態になる。
米軍が優勢になると思われた時、突如オハイオの右舷に巨大な水柱が立ち上がった。
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