大和対モンタナ
結論から言って、大和の探照灯照射は敵艦を捉える事は出来なかった。
台風の雨が強く、濃厚な雨粒がスクリーンとなり、探照灯の光を乱反射させ、敵艦に届かない。
むしろ、大和が目くらましを受けることになった。
だが、電探のお陰で敵艦の位置は判明している。
また、途中までとはいえ、敵艦へ伸びる光の柱は、味方艦隊に敵艦の方向を知らせた。
「全軍突入せよ!」
探照灯照射と同時に命じられた伊藤の命令に各艦は従った。
敵戦艦モンタナに向かって第一遊撃部隊全艦が突入していく。
「敵艦の位置、大和より方位二〇二、距離二万五千」
刻々と大和から敵艦の位置が知らされ、各艦は狙いを定める。
「艦長、距離一万五千を維持」
「了解!」
離れすぎたら命中弾は期待出来ない。
それに味方の攻撃に巻き込まれる事を恐れ伊藤は命じた。
本来なら二万五千からアウトレンジで決めたいところだが、接近させる。
「射撃準備完了!」
「撃て!」
大和からモンタナへの初弾が発射された。
流石に初弾は大きくズレたために、全て遠弾となり命中弾はなかった。
だが、すぐに砲術長が思い切って近くへ修正。
第二射は近弾となった。
第三射で、再び遠弾となったが、距離は徐々に縮まる。
そして第四斉射で、遂に命中弾が出た。
モンタナの前後左右に砲弾が落ち、そのうちの一発が、水中弾となり第一砲塔付近の舷側に命中した。
分厚い装甲のため、千トンの浸水を引き起こしただけで済み、モンタナに実質的な損害は殆ど無かった。
だが、大和の主砲はモンタナを夾差、捉えることに成功した。
「次は当てるぞ! 撃て!」
続く第五斉射は、確率論的に真っ当な結果となった。
一発が、艦尾をかすめカタパルトを破壊。
二発目はセント内中央部煙突近くに命中し周辺の両用砲と対空機銃を破壊。
残り一発は水中弾となって第二機関室横の防御区画に浸水を引き起こした。
ようやくモンタナは混乱から立ち直り、大和に向けて砲撃を行う。
だが、アイオワほどではないにしても大和より動揺が激しい上に、出だしが遅れた。
初弾を放つも、大和を捉える事無く遙か遠くに着弾した。
その間に、大和は第六斉射を放った。
この斉射は致命的だった。
偶然にも、第五斉射の水中弾が当たった箇所に再び水中弾が命中し、第二機関室へ浸水を引き起こした。
シフト配置の米軍艦の場合大きなダメージとはならないが、機関室の一つが機能を失い確実に速力を落とした。
甲板にも命中弾が降り注ぎ、第三砲塔近くに被弾。
ターレットを歪ませた上、火災を発生させ、注水を行う。
もう一発は艦橋に命中し、デヨ少将以下、幕僚を瞬時に死に至らしめた。
事実上、モンタナそして第五四任務部隊の指揮系統はここで失われた。
それでもモンタナは反撃を、ジョン・ポール・ジョーンズ――独立戦争を戦った米海軍最初の英雄の訓示「戦いはこれからだ!」の時の言葉どおり、残った主砲で反撃を行う。
しかし、モンタナの反撃も、そこまでだった。
大和の第七斉射が放たれ、浸水により傾いていた船体と波浪による揺れが偶然にも、甲板と砲弾の突入角がほぼ垂直になって仕舞った。
第二砲塔弾薬庫付近に命中した四六サンチ砲弾はその運動エネルギーを装甲に弾かれる事無く、全て叩き付けて貫通し、内部で信管を作動させ炸裂した。
米艦艇らしく防御に注意を払われたモンタナであっても誘爆には耐えられず、船体が引き裂かれる。
それでも余った爆発のエネルギーは、前方の第一砲塔弾薬庫へ入り込み、誘爆を引き起こし、致命傷となった。
巨大な爆発の光を放った後、モンタナは雨のカーテンの中で、海中へ消えていった。
デヨ少将以下、全乗員が戦死。
生存者は発見できなかった。
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