日本海軍の先制と米軍の混乱

 艦隊を分離させたのは戦力を活用するためだ。

 大和は沖合から全火力をぶつけるため。


「第二艦隊分離。沖縄本島の沿岸を航行中。敵艦隊と本島の間に入ります」


 そして金剛以下第二艦隊は敵艦隊に斬り込むために沖縄本島の沿岸ギリギリから迫る。

 敵のレーダーに捉えられないようにするためだが、針路左側へ敵が侵入されないよう、背後から奇襲されないよう、右に敵を捉え続け、攻撃に専念させる為だ。

 大和の場合、吃水が深いのと、防御力が高いため不意打ちを食らっても耐えられる。

 そして、沖合に出ることで第二艦隊と共に挟み撃ちに出来る、行動の自由により全火力を敵艦隊にたたき込めるからだ。

 吉田は忙しかった。敵艦隊の位置を確認すると共に第二艦隊の位置と誘導を行う必要があり、てんてこ舞いだ。

 だが、敵艦の数が少ないため、どうにかなっていた。


「間もなく有効射程内に入ります」


「射程に入り次第砲撃開始」


「了解! 全艦砲撃戦用意。左砲戦」


「主砲旋回始め」


 森下の命令で大和が動き始める。

 再び敵戦艦を仕留められると喜び、主砲を旋回させ一式徹甲弾を装填する。


「射撃諸元入力完了」

「撃て!」


 大和は砲撃を開始した。

 嵐のため、視認できずレーダーからのデータのみでの砲撃だった。

 だが、これが日本側によるアメリカへの初の先制レーダー射撃となった。

 多数の水柱がウィスコンシン以下、アイオワ級の周囲に立ち上がる。

 性能的に優れているレーダーを持つ彼女らが大和を捕捉出来なかったのは、細い船体のせいだ。

 パナマ運河を通るため、三三ノットの高速を出すために、船体幅を三三メートル以下に制限したことで横幅が足りず、艦の動揺、横揺れが激しくマストのレーダーが揺さぶられ性能が低下していたからだ。

 四六サンチ砲を発砲するため、船体幅を広くした大和は横揺れが少なくレーダーの性能低下は最小限で済んでいた。

 それが、日本側に先制攻撃の機会を与えた。

 突然の砲撃を受けたアイオワ級戦艦群は混乱しつつも、日本艦隊の鼻先を押さえるべく、左に舵を切った。

 敵艦の発砲炎から位置と針路を推定し、頭を抑えアイオワへ向かわせようとする。

 しかし、そこへ別方向から砲撃が降り注いだ。

 金剛を先頭とする第二艦隊だった。

 佐久田の目論見通り、沖縄本島の影に隠れて米軍のレーダーに発見されず密かに接近する事が出来た。

 二方向からの攻撃にウィスコンシン以下、アイオワ級戦艦群は混乱する。

 そんな中、先頭を走るウィスコンシンに大和の主砲が命中した。

 一発は艦首に命中、二発目は水中弾となり第二機関室を浸水させ、速力低下をもたらした。

 速力維持が難しくなった判断したウィスコンシンは反転し、離脱を図る。

 しかし、それは新たな混乱を引き起こした。

 続行するアイオワ級戦艦群は旗艦ウィスコンシンの転舵を戦術行動と考え、続行してしまった。

 そのため、アイオワ級三隻は味方艦隊主力モンタナ級へ向かってしまった。




「デヨ司令官、レーダーに反応、三隻が接近中です」


「敵か」


「不明です」


 申し訳なさそうにレーダー担当士官が答える。

 レーダーの性能低下により、先発するアイオワをモンタナは見失っており、新たに探知した目標が敵味方か判明しなかった。

 嵐で敵味方識別装置も上手く作動していなかった。

 視界も悪く、日本艦隊どころか味方艦を視認する事も出来なくなっている。

 予想以上に嵐が酷く揺れも酷い。

 アイオワより大きいモンタナ級だが、レーダーと対空砲の増設で重心が上がり、揺れが激しく性能が低下していた。

 しかも突然の砲撃に驚いたウィスコンシンの司令官が連絡を忘れ反転しており、突如現れた艦がデヨ少将には敵味方不明の艦となっていた。


「ウィスコンシン達は日本艦隊にすり抜けられたか」


 多数の日本艦隊が接近していると報告を受けている。

 日本艦隊が前進し続けるアイオワ級戦艦群の目をすり抜けて迫っているとデヨは判断した。


「迫ってくる艦を敵と判断する。砲撃用意」


 計画通りにウィスコンシン達は行動しているとでデヨ少将は考え、近づく艦を日本艦と判断。

 迎撃することにした。


「全艦左回頭。右砲戦。接近する敵艦を撃破する」


「了解! 全艦左回頭」


 モンタナ級三隻が左へ回頭し右に全砲門を向けた。


「砲撃準備完了!」

「撃てっ!」


 各艦一二門、三六門の一六インチ主砲弾が放たれた。

 砲弾は狙われた艦、アイオワ級戦艦群に降り注ぐ。

 突然の前方からの砲撃、味方がいるはずの方向からの攻撃にウィスコンシンの司令官の混乱は更に大きくなる。


「各個に応戦!」


 三方向からの砲撃に対してそれぞれ対応する事にした。

 各砲塔をそれぞれの方向へ向け砲撃を行う。

 その一部が、モンタナの周辺に落ち、敵艦からの砲撃と判断し、反撃を命じる。

 遂にモンタナの主砲が敵艦、と判断されたウィスコンシンに命中した。

 第二砲塔に一六インチ砲弾が命中し大きく損傷する。

 双方とも同じ一インチ砲だったが距離が短くなり装甲を撃ち抜けるところまで来ていた。

 そこでようやくデヨ少将は気がついた。


「! あれは味方のウィスコンシンだ! 全艦射撃止め!」


 被弾の爆炎で艦のシルエット、低い艦橋に細いマストの三連装三基の戦艦、アイオワ型であるのを確認した。

 デヨ少将は撃っているのが味方と分かり砲撃停止を命令する。

 しかし、混乱する戦場の中、砲撃が収まるには暫し時間が掛かった。

 ようやく米軍同士の同士討ちが収まった時、大和はモンタナに狙いを定めた。

 

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