沖縄沖海戦 日米両艦隊接触

「全艦、出撃しました」


「よし」


 第五四任務部隊司令官デヨ少将は部下の報告に頷いた。

 しかし戦力は不安だ。

 指揮下にあるのは


 モンタナ級 モンタナ、オハイオ、メイン

 アイオワ級 ウィスコンシン、ミズーリ、イリノイ

 サウスダコタ級 インディアナ、アラバマ


 ニューヨーク級 ニューヨーク、テキサス

 ニューメキシコ級 ニューメキシコ、アイダホ

 ワイオミング級 ワイオミング、アーカンソー、


 一七隻の戦艦であり、米海軍の全ての戦艦を投入している。

 しかし、新戦艦はモンタナ、アイオワ、サウスダコタクラスの八隻のみで、他は第一次大戦の旧式艦だ。

 それでも嵐の中で航行出来る分、駆逐艦や巡洋艦よりマシだと考えている。


「アイオワ級を先頭へ、我がモンタナの後にオハイオとメインを、インディアナとアラバマは後衛。他の戦艦は左右と後方に展開して警戒させろ」


「了解」


 駆逐艦と巡洋艦がいない分、警戒には戦艦を使うしかない。

 その役目を旧式戦艦群に行わせる事にした。

 アイオワ級は速力を生かして先頭を走らせ早急に日本艦隊と接触させて、優位な位置を占めさせモンタナ級戦艦群へ日本艦隊を誘導し、撃滅する。

 サウスダコタ級は予備兵力だ。

 少なくとも、万全と思えた。

 気になるのはニミッツ提督が観戦したいとインディアナに乗り込み予備部隊の指揮を執っていることだ。

 指揮権はデヨ少将に預けているが、気になる。

 後方で待機して欲しいのだが、日本海軍との決戦を夢見ていたこともあり止める事は出来なかった。

 拒絶するならデヨ少将自身を解任して自分が総指揮を執りかねない。

 流石に周囲が止めたし、自重したが、やりかねない。

 少なくとも、ニミッツ提督率いる予備部隊を使う前に決着を付けたいと考えていた。


「司令官、予想より海が荒れており、非常に揺れています」


 外洋に出て揺れが更に強くなった。

 排水量六万トンのモンタナ級でさえ揺れるのだから、他の艦は、特に半分程度しかないサウスダコタ級戦艦や旧式戦艦群は、航行に支障が出ているだろう。


「戦力になるのは我々くらいか」


 四万トンクラスのアイオワ級と六万トンのモンタナ級で何とかするしかない。

 それにスプルーアンス提督が倒れ、指揮継承などで混乱し出撃が遅れたことも痛い。

 本来なら沖縄本島と奄美大島の中間あたりで迎撃の予定だったが、指揮官交代などで出撃が遅れたため、沖縄本島付近で戦う事になる。

 沖縄本島が右手にある状況だと、戦術的選択肢が限られてくる。沖縄本島が邪魔で敵艦隊を右翼から包囲できないなどの問題が出てくる。

 波が激しく、速力が出せないことも悪条件に繋がっている。

 願わくば、敵艦隊も嵐の動揺で速力が落ちている事を願うだけだ。 

 そう考えていた時、前方から光が見えた。


「どうした」


「前方で発砲炎です」


「敵艦隊発見の報告はあったか」


「いいえ」


「どういうことだ」




「敵艦隊発見……」


 大和の電測室で浜野少将が報告したが、続報はなかった。

 言葉ではなく、胃の内容物を吐き出したからだ。


「大丈夫ですか」


 電測士の吉田満少尉が駆け寄り摩る。


「ありがとう。すまない、船に弱いんだ」


「はあ」


 浜野の言葉に吉田は、気のない返事で答えた。

 常人より卓越した知能を浜野少将が持っていることは、認めている。

 でなければ距離四万で嵐の中、電探で敵艦隊を発見する事などできない。

 そもそも作動するか怪しい電探を使い物になるよう改造したのは浜野少将だ。

 もし東大に行けば最年少の教授になったことは間違いない。

 それだけ凄い方だ。

 ただ、幾つか欠点がある。その一つが、船に弱いことだ。

 海兵の時から乗艦した時酔っていたそうだ。

 大和は比較的、揺れが少ない。

 まあ海面から五〇メートル近い高さのマストの先端に近い部分にいたら相当揺れるが他の艦よりマシだ。

 嵐の中でも揺れが少ないので電探は安定した性能を発揮する。そのため、前方警戒と索敵に大和が艦隊の先頭を行くことになっていた。

 第二艦隊の有地中将は先陣として突入できず不満のようだったが、嵐の中を進むのにもっとも安定している大和が先陣を切る方が良いのは明らかだった。

 だが、流石に大和の一番高い場所、第一艦橋だと揺れが大きく酔ってしまう。


「大丈夫です。大和は不沈艦ですから沈みません」


「不沈艦などない、まあ沈まないようにしなければ」


「ええ、勝てませんから」


「そうだ、それに俺は泳げない」


「……」


 浜野少将のもう一つの欠点は、泳げないことだ。

 海兵でも金槌だったと聞いている。今でも苦手のようだ。

 これで、どうして海兵に志願したのか同期の間でも疑問に思われていた。

 本当に有能な人間、海軍兵学校始まって以来の天才と言って良く、殆どゼロの状態から日本の電探を開発した実績を持つ功労者なのだが。

 それでも吉田は介護を続けた。

 艦長と参謀長から宜しくと言われている。

 海兵の一期先輩だからだそうだ。

 ただ、思い出は少ない。勉強を見て貰った事があるが、浜野の話が高度すぎて、理解出来なかったからだ。

 それでも先輩である上、作戦の鍵を握る電探を完璧に作動させ扱えるのは浜野しかいない。

 だから、浜野の事を二人は気に掛けていた。

 しかし、限界だった。


「敵艦の捕捉は続けてくれ吉田少尉」


「分かりました」


 休憩室へ下がった浜野に代わり、吉田は、命令通り敵艦の位置を捕捉し続けた。


「敵艦、右一〇度の方向。三隻が単縦陣で向かってきます。あ、更に後方に三隻を確認。その左右に二隻を確認しました」


 探知した報告はすぐに伊藤の元に伝えられた。


「どうする佐久田参謀」


「予定通り、攻撃しましょう。此方に近づいてくる連中は前方哨戒のためでしょうが、本隊から離れています。各個撃破して状況を優位に持ち込みましょう。第二艦隊は沖縄沿岸を突破、我々は左舷に敵艦を捉え撃滅します」


「宜しい。艦隊に打電。予定通り分離せよ」

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