四四二連隊の奮戦
アメリカ陸軍第四四二連隊。
太平洋戦争中の42年に創設され戦後すぐに廃止されたため僅か五年にも満たない部隊歴しかない。
だがその僅かな期間で米軍史上、最も勇敢に戦った部隊として後々まで響き渡っている。
それは彼ら、連隊の構成員が日系アメリカ人である事、彼らの事情が関係する。
日本は貧しく、戦前は海外移民が盛んだった。
移住先はアメリカが多かったが日露戦争後のアメリカ国内の人種問題、日系排斥により入国が制限された。
そのため、ブラジルへ移住先を変更する事が多かったが、アメリカ国内に住んだ人々への偏見や差別も激しかった。
それでも彼らは頑張ってアメリカ社会に溶け込もうとしたが、その最中、太平洋戦争が始まった。
真珠湾攻撃により、日本と戦う事になったアメリカは日系人を信用しなかった。
日本軍と内通するのではないか、そもそもパールハーバー奇襲は彼らが手引きしたのではないかと怪しんだ。
アメリカ国籍があるにもかかわらず、合衆国政府はアメリカ国内の日系人一二万人を財産没収の上、強制収容所に移動させ、監視した。
ドイツとも開戦していたがドイツ系に対してはそのような事は無かった。
日系人達は収容所の中で厳しい生活を送ることになる。
だが、彼らの心は現状を良しとしなかった。
アメリカ国民である事を証明するため、軍に志願した。
日本軍が欧米からのアジア解放を謳い、アメリカの日系人強制収容を非道の実例として喧伝したこともあり、反論の為にも日系人の部隊を作る必要があった。
そうして第一〇〇歩兵大隊が編成され大隊長以下三人の幹部が白人である事以外、全員が日系人で構成された。
彼らは優れた成績を残し、連隊創設を後押しした。
これが第四四二連隊である。
日系人のみのため、師団に編入されず独立連隊として編成されたため、歩兵でありながら砲兵大隊、工兵中隊を加えた独立連隊戦闘団として単独戦闘が可能だ。
彼らは、日本軍への内応を危惧され、ヨーロッパ戦線へ投入された。
初め米軍上層部は、弾よけに日系人を使っているという風聞を恐れ、彼らを最前線には送ろうとしなかった。
しかし、四四二連隊は不服として最前線行きを志願。要請を認められ、最前線へ行く。
膠着状態だったイタリア戦線でドイツ軍の防衛線グスタフ・ラインおよびカエサル・ラインを四四二連隊は突破しローマへの道を開いた。
ローマ入城は却下されたが、彼らは戦い続け、モンテカッシーノの戦いでは多数の凍傷者を出すも戦いを続けた。
一度後方へ下げられ再編成ののち西部戦線へ投入され、戦い続け、テキサス大隊を救出するなどの功績を挙げた。
常に最前線で戦うため、死傷者が多くパープルハート部隊と名付けられた。
パープルハート――名誉戦傷章だけでなく陸軍殊勲章のほか、銀星章、議会名誉勲章、アメリカ軍最高の勲章を多数授与される。
特に名誉勲章は一回の戦闘で一つのみという不文律があるにも関わらず、戦後となったが同じ戦いで二名が受章するなど武勲が多い部隊だ。
ドイツ戦が終わり、太平洋戦線へ移動が開始されていたが、休養と再編成の為に本土とハワイで休養していた。
しかし、彼らは名誉を守るため、即時投入を要請。
選抜部隊を編制し先遣隊が洋上待機ながら沖縄戦に投入された。
そして戦局の悪化により、彼らも最前線に投入される事となり、孤立した米軍の救出にやって来た。
「済まなかった」
罵声を浴びせてしまった大尉は詫びた。
「負傷者は?」
「包帯所に大勢いる」
「すぐに後送できるようにする」
「助かる」
「この陣地を奪回する」
「有り難いが、困難だぞ。あの高地から攻撃を受けるからな」
「なら、あの高地も占領する必要があるな」
「無謀だぞ」
「Go for broke!」
当たって砕けろ、442連隊のモットーを言った、
元はギャンブルで有り金をつぎ込むという意味だが、四四二連隊は好んで使ったために彼らのモットーとなった。
彼らの意気に大尉は、呆れながらも頼もしく感じた。
「しかし、親や祖母の故郷と戦うのは大変じゃないか」
「確かに、この沖縄には私の従弟や甥、姪が住んでいるそうだ」
日本でも貧困層が多い沖縄からの移住者が日系には多くいた。
生まれ故郷と戦う者は多くいた。
「だが、今は合衆国国民だ。星条旗に忠誠を誓っている」
「良く戦えるな」
「米国で生まれた日系二世の人達は、アメリカ人として祖国アメリカのために戦うべきである。なぜなら、君主の為、祖国の為に闘うは、其即ち武士道なり、と言われたからな」
「誰だ。そんな事を言ったのは?」
「東条英機、開戦当時の日本の首相だ」
聞いた大破再び唖然とした。
ヒトラーのような人物だと聞いていたがそんな事を言うとは。
ヒトラーよりは好感が持てるが。
「さあ、行くとしようか」
四四二連隊は突撃を開始した。
夜陰に乗じて高地を登り日本軍の陣地に迫る。
それは拍子抜けるほど上手くいってしまった。
まさか米軍が、それも嵐の夜陰に乗じて襲撃してくるなど想定していなかった日本軍は、混乱。
高地を奪取されてしまった。
「報告します! 攻撃準備陣地である高地が占領されました」
「何だと!」
思いがけぬ報告に普段冷静な八原は驚き声を上げた。
「ここは防衛線の要だ。直ちに奪回しろ」
「了解!」
しかし、攻撃は上手くいかなかった。
激しい日本軍の砲撃にもかかわらず、四四二連隊は頑強に陣地を守り通した。
攻撃を受けても稜線の影に隠れ、損害を少なくし、日本軍が突撃してくれば稜線から出て反撃する。
頂上を占領しようと粘り強く抵抗し、四四二連隊は決して引かずむしろ反撃してくる。
ついには歩兵同士の肉弾戦となり、日本軍は装備した大量の手榴弾を投げつける。
「伏せろ!」
塹壕に入ってきた手榴弾を見たある四四二連隊の兵士は、仲間を退けると手榴弾の上に自らの身体を覆い被せる。
直後爆発した。
「がはっ」
手榴弾の爆発を一身に受け兵士は絶命したが彼が破壊力の全てを引き受けたため仲間達は無事だった。
「怯むな! ここを守り切れ! Go for broke!」
「Go for broke!」
モットーを声高に唱え、四四二連隊は銃を突き出し日本軍に対して反撃を行う。
その抵抗は猛烈で、日本軍は進めずにいた。
「奪回できたか」
反撃状況が気になる八原は焦燥を抑えられず尋ねた。
「敵の抵抗が激しく未だ出来ていません。無理に前進しても、彼らは決して退かず、孤立しても反撃するため、完全制圧は出来ておりません」
「なんて連中だ」
激しい戦いぶりに八原も唖然とした。
「予備を出して奪回しろ。ここは反撃の拠点だ。残していたら、厄介だ」
「了解!」
乏しい予備から引き抜くことになったがそれだけ四四二連隊の確保する地点は重要だった。
日本軍の防衛ラインの内側にあるため、第三二軍が火力を集中し指揮統制が出来るのに対して、四四二連隊は計画の内とは言え突出したため、味方の援護が無かった。
あったとしても、嵐の中では打てる手は少なかったが、四四二連隊は犠牲が出ようとただただ守り続けた。
「火器が無くなっても、あれほど粘り強く守り通した米軍部隊は他にいなかった」
と戦後に八原が称賛するほどの戦いぶりだった。
この四四二連隊の戦いにより日本軍は総反撃が順調にいかず戦線は膠着。
米軍の防衛線は何とか維持され日本軍の総反撃は、鈍り停止することとなる。
そして戦いの焦点は、陸上から海上へ移りつつあった。
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