日本が受けた衝撃
「広島が壊滅したのは本当か」
「はい、呉鎮守府の偵察機が確認しました。市街地は壊滅状態です。現在所属鑑定及び陸戦部隊が救援に赴いていますが救出は、特に中心部は絶望的です」
首相官邸で鈴木貫太郎に、高木は報告した。
「信じられない」
「こちらに、厚木から空輸されたばかりの写真が届いております」
広島で写真偵察を行ったあと現像され、彩雲で首相官邸へ通信筒で落とされたばかりのものだった。
「まさか、これほどの威力とは……」
写真を見て絶句した。
先日江田島へ向かう時、広島市内で特徴的なドームを持つ広島県物産陳列館――今は産業奨励館と呼ばれている建物をこの目で見ている。
いや、若い頃から何度も呉に行き、広島に脚を伸ばしており、広島のことは隅々まで知っている。
その広島が焦土に。
焼け野原であり、見る影も無く広島だとは信じられない。
だが、川や焼け残った道路の位置は紛れもなく広島の市街地そのものだ。
「……何という、被害だ」
「しかし、これは天佑です」
「何を言うか!」
高木の言葉に鈴木は激昂した。
若い頃から、日清戦争の頃から勇猛果敢で鬼の貫太郎と呼ばれ、怒りの激しさは置いてなお衰えていない。
しかし高木は怯んでいなかった。
「広島の被害を知れば徹底好戦派は折れて降伏を、無条件降伏を許すでしょう」
「む」
高木の指摘に鈴木は黙り込んだ。
最大の問題は徹底抗戦派の存在だ。
鈴木が降伏を決断しても、いや陛下が決断しても、最悪の場合、陸軍内部の強硬派が反乱を起こし、徹底抗戦を叫び降伏を蹴飛ばす恐れがあった。
だが、米軍がこれだけの威力を持つ、新型爆弾を持っていると分かれば、降伏を許容するだろう。
「第二総軍の畑君は無事か」
畑元帥は、かつて小磯の後任として東條に巣一戦された人物だが、陸軍では理知的で温和な人物だ。
本土決戦時、西日本の地上部隊を指揮する役目だが、作戦に自信なしと、中央へ率直に話す胆力のある、人物だ。
「丁度、部隊視察のため、投下時は広島を離れていました」
陸軍の重要な都市である広島に第二総軍の司令部が置かれていたが、色覚の部隊を把握するために、離れていたことで被爆死を避けられた。
「それは良かった杉山より良い」
杉山元帥は統制派の重鎮だが、根拠の無い、楽観論を言うことが多い。
盧溝橋の時は陸軍大臣で、支那事変はすぐに終わると上奏したが、未だに終わらず、太平洋戦争開戦時には参謀総長を務めていたが、南方作戦は5カ月で終わると言ったが、南方作戦は終わったが、太平洋戦争は続いている。
「我々の終戦工作にも参加いただいていますが」
「便所の扉だ。押しても引いても動く」
八方美人というか、都合の良い事ばかり言うので信用がならない。
日和見主義者と言ったところであり、講和になれば協力してくれるだろうが、徹底抗戦となれば真っ先に自分たちを裏切りかねない。
「事は慎重に進めなければならない。特に陸軍の強硬派を説得する必要がある。だが同時に結束を強めなければ。自暴自棄になり国が瓦解する事は避けたい」
「講和に纏める必要があると思いますが」
「勿論だ。だが、あまりにも圧倒的で国民が意気消沈しても困る」
「……分かりました」
あまりにも酷い被害に国民が無気力になって国の活動が停止することは避けたい。
各地で空襲を受けても活動してくれているが、新型爆弾の事を聞けばどうなるか分からない。
「ところで、その新型爆弾だが、我が国でも持てるか?」
「仁科博士に尋ねましたが、近日中には不可能と」
「どれくらい掛かる?」
「材料が揃っていたとして、運が良くて三年後だそうです」
「話にならないな」
「ドイツでさえ、大戦中の開発は無理と考えて中止しています。しかし何故そのような事を」
「これだけの威力だ。我々も持たないと交渉の席に着けない、米国が新型爆弾の威力を前に強引に無条件降伏を押しつけてくることも考えられる」
「確かにその懸念はありますが、数は少ないでしょう。あとせいぜい二発か三発。もし多数あるなら、既にいくつかの都市が吹き飛んでいるでしょう」
「試しと、威力の誇示のためでない、と何故言える。複数発あったら、日本の都市は、東京も破壊される。何とか対抗手段を、せめて当面の攻撃をなくしたい」
「ならば、幾つか作戦があります。対処のしようはあります」
「大丈夫か?」
「多少の変更だけで済むかと」
「くれぐれも講和を頼むぞ」
「はい」
高木は一礼した後、状況報告と佐久田との情報交換の為に海軍省へ戻っていった。
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