原爆投下の影響

「大統領閣下、広島に原爆を投下し、市街地を壊滅状態にしたとの事です」


「そうか、よくやった!」


 ヨーロッパからの帰り、大西洋上で原爆の実戦投下成功の報告を聞いたトルーマンは喜んだ。

 これで長引くこの戦争と戦後に使える切り札を手に入れられた。


「直ちに声明を出すのだ。これで交渉の場に出てくるだろう」


 トルーマンは頑強に抵抗する日本政府を引きずり出せると考えていた。

 同時にもう一人の相手にもアメリカの力を見せつけられた事を喜んでいた。




――アメリカの飛行機が日本軍の最重要陸軍基地・広島に一発の爆弾を投下した。

 この爆弾の威力はTNT2万トンを上回るものである。

 これまでの戦争の歴史において使用された最大の爆弾、イギリスのグランドスラム爆弾と比べても、2000倍の破壊力がある。

 これは既存の技術を超越した新技術、原子力を使った完全な破壊をもたらす爆弾、つまり原子爆弾である。

 ポツダムで7月26日に最後通告が出されたのは、日本国民を完全な破壊から救うためであった。

 日本の指導者たちは、この最後通告を即刻拒否した。も

 し彼らがアメリカの出している条件を受け入れないならば、これまで地球上に一度も実現したことのないような破壊の雨が降りかかるものと思わねばならない。


「忌々しいことだ」


 ラジオでトルーマンの声明を聞いたスターリンは苦虫を噛むような思いで言う。


「アメリカがあのような力を手に入れるとは」

「ですが、アメリカの原爆製造の情報は手に入りつつあります」


 KGBのベリヤが報告する。

 彼の元にはマンハッタン計画に携わった科学者、共産主義に感化された参加者からの情報提供があった。

 勿論、それだけで開発出来るわけではない。

 原子炉や爆縮レンズの製造など超えなければならない事は多い。

 だが、アメリカが一から、試行錯誤と無数の失敗を経て来たのに対して、ソ連は成功させた情報を元に最短距離で完成へ至ることが出来る。

 数年単位の時間は掛かるが確実に手に入れられるとした。


「問題は、それまでにどれだけ共産主義の勢力を手に入れられるかだ。アメリカがすぐにでも我がソ連に攻め込めば、敗北は免れない」


 ドイツに勝利したソ連だが、アメリカの援助あってのことだ。

 戦えば、膨大なソ連軍を維持出来ず自壊してしまう。


「ソ連の国力を回復するためにも共産圏を広げることは重要だ」

「ヨーロッパの共産化は進んでいますが」


 占領した東ドイツやソ連の影響下で共産政権を樹立した諸国が加わりつつあった。


「ヨーロッパだけでは足りない。アジアにも共産主義の陣営を作り上げる必要がある」

「毛沢東がおりますが」

「あのような者を信用出来ない」


 ソ連の援助がなければ国民党に潰される程度の弱小のくせにまるで中国の支配者、いや、スターリンと同格のように振る舞うのが気に入らなかった。


「やはり、共産主義を広げるには我がソ連が先頭に立たなければならないな」


 スターリンは厳かに言った。


「三日後、対日参戦する。ヴァシレフスキーに伝えろ」


 対日侵攻のため極東ソ連軍総司令官に任命されたヴァシレフスキー元帥は伝えられて驚いた。


「同志書記長。対日参戦は九月の予定でしたが」


 ドイツの降伏が六月、それから部隊をシベリア鉄道で移動させ攻撃準備を進めていたが、全ての部隊が配置に就いていない。


「原爆により日本軍の降伏が早まるかもしれない。その前に清公使可能な限り占領地を増やすのだ」


「ですが準備が整わず攻撃するのは、損害が増えるだけです」


「日本軍は米軍に対処するために多くの兵力を移動させている。満州に残る部隊は少ない。ノモンハンと露日戦争の雪辱を晴らす時だ。弱体化した日本軍など蹴飛ばせば崩れる」


「満州国軍などが残っていると聞いておりますが」


「傀儡の軍隊など赤軍の前に敵ではあるまい。三日後だ。三日後、作戦を開始し、日本の領土をできる限り早く、米軍より早く、多くの土地を得るのだ。いいな同志司令官。貴官の共産主義への献身を期待している」


「分かりました同志書記長」


 スターリンにそこまで言われては断ることも出来ず、ヴァシレフスキーは不承不承ながら三日後の攻撃を約束してしまった。


「宜しいのですか同志書記長」


 傍らで聞いていたモロトフが尋ねる。


「北山と満州国を存続させる代わりにソ連を支援するという約束は」


「傀儡とはいえ、君主を抱くなど反共的だ。赤軍によって占領し共産主義の同志に統治させた方が良いだろう」


「北山は?」


「共産主義に役に立つのであれば受け入れよう。全ては共産主義の指導の下になくてはならない。そこに例外はない」


 ソ連の思い通りにならない、スターリンの命令を聞かない人間をスターリンは認めたくなかった。


「赤軍により、満州も東アジアも全て手に入れる。同志モロトフ、日本への宣戦布告の準備を進めておきたまえ」


「分かりました」


 ここにソ連の対日参戦が決まった。

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