広島への原爆投下

「広島を視認した」


 八時過ぎ、エノラ・ゲイは広島上空に到達した。


「攻撃始点到達」


 航法士のカーク大尉が報告し予定通りのコースに入り投下目標を見つける。

 爆撃手フィアビー陸軍少佐はの流伝照準器に高度、対地速度、風向、気温、湿度などのデータを入力し投下目標、相生橋に合わせる。

 太田川の分岐地点より上流にあり、太田川を横断しつつ中州へ伸びる世界的にも珍しいT字型の橋のため、上空からでも容易に確認出来る事から、目標、より正確には目印に選ばれた。

 原爆の被害半径はキロ単位であり、都市の中心部に近い、見間違わない目標であれば何処でも良かった。


「目標捕捉!」


 自動操縦に切り替える。

 あとは機械が自動的に投下してくれる。


 8時15分17秒、原爆ファットマンが自動投下された。

 投下後ティベッツ大佐は自動操縦を解除し衝撃波と熱線を避けるため155度旋回、及び急降下した。

 これで核爆発の影響を避けられるとされていたが、実際は不明であり、投下した機体や観測機が衝撃で消滅することも十分考えられた。

 しかし、予想通りの威力で、急旋回によって爆圧を避けることが出来た。

 爆弾は、投下されたが風のためか、南東へずれて島病院付近、高度六百メートル上空で信管を作動させる。

 爆縮レンズによってプルトニウムを爆縮させて核分裂爆発を起こし、百万度の火球を生み出した。

 激烈な放射線が周囲に広がり、致死量を大きく上待った人を即死させたが、直後に強烈な熱波が襲い、彼らの遺体を焼き尽くし、何もかも消失。

 僅かに幸運な者がコンクリートや石崖に自らの影が掛かっていた部分だけが周囲より低い温度で残っただけであとは全て消失した。

 爆心地より離れた範囲では衝撃はによって建物が吹き飛ばされ、鉄骨のみとなる。

 熱波も酷く、同心円状に猛烈な火災を起こさせ、広島は炎の壁に包まれた。


「なんてことだ……」


 上空からその様子を見ていたエノラ・ゲイのガンナー達は、驚きのあまり言葉を失った。

 原子爆弾の事を知っているのはティベッツ大佐の他数名のみで、他はサングラスを与えられただけだ。

 大げさだと思ったが、サングラスだけでは足りなかった。

 爆発の瞬間、強烈な、太陽以上の強い光が地上に現れた。

 咄嗟に目を瞑っても光が強く顔を逸らして守らなければならなかった。

 直後、機体に凄まじい衝撃が走った。

 空中分解しそうになると思うほど激しく揺る。

 機体の動揺が収まり、背後を見ると、広島は、自分たちが爆弾を落とした町は中心部に巨大なキノコ雲が生まれ大火災を起こしていた。

 アレを自分たちが、一発の爆弾で都市を消滅させた事が信じられなかった。

 本来なら数百機ものB29を使い、莫大な損害を覚悟して行わなければ達成出来ない損害を日本に与えたことが信じられなかった。


「作戦成功。帰投する」


 ティベッツ大佐は爆撃を成功させると、長居は無用、とばかりにテニアンへ針路を取った。

 初めこそ興奮していた乗員達だったが、やがて罪悪感に打ちのめされた。

 あの下に、何人の住民が住んでいたのか考えると、一方的な圧倒的な攻撃に罪悪感が芽生えて始めていた。

 テニアンに着陸するまでの七時間の飛行時間はその事を考えるには十分すぎる時間、いや苦痛だった。

 帰投後の出来事も彼らを悩ました。

 その夜は、初の実戦投入に成功した事を祝って、夜通しのパーティーが開かれた。

 特に原爆開発に携わっていた科学者達の喜びは大きく、何度も広島の様子を尋ねてきた。

 乗員達は言葉少なく答える事しか出来なかった。

 だが、計画推進者達は違った。




「おめでとうティベッツ大佐。君は歴史に名を残した」

「ありがとうございます」


 パーティーの席でルメイにティベッツ大佐は感謝を伝えた。


「しかし、宜しかったのですか? ファットマンを使って。リトルボーイの方が確実だったのでは?」


「ファットマンはトリニティで成功しているが、実戦で確実に作動するか不明だった。ならば、使える事を証明するために早々に確認しておきたかった。リトルボーイは確実に使える事が分かっている」


 爆縮レンズを使うプルトニウム型は精密な計算の元使用される。

 手順も複雑で、使用前に組み立てる必要がある。

 使用しない場合は、一度解体して電池を交換しなければ再使用が出来ない位だ。

 それだけ信管の同期が必要であり、繊細だった。


「だが、これでプルトニウム型が使える事が分かり、懸念は全て払拭出来た。量産しやすいプルトニウム型原爆により合衆国は世界で揺るぎない力を、世界さえ滅ぼせる力を得ることが出来た。あとは日本にもう一度見せつければ良い。数日以内にリトルボーイを投下する事になるだろう。その時はよろしく頼む」

「分かりました。しかし、リトルボーイ以外の原爆がないのが残念です」


 インディアナポリス撃沈で一発分の原爆が失われたのが悔やまれる。

 さらにリトルボーイを含め二発も落とせば、日本は降伏するだろう、とティベッツ大佐は考えていた。


「しかし、グローブス准将は更に生産し配備するとおっしゃっていましたが、何時届くのですか。既に一発分が完成したと聞いていましたが」

「ホワイトハウスが、効果的に使用するために他に配備すると言っているどうなるかは知らない。いずれにしろ配備は後の事になるだろう。今は、リトルボーイの事だけを考えてくれ」

「了解しました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る