大和進撃続行
「広島が新型爆弾により壊滅……」
広島への原爆投下は進軍途上の第一機動艦隊にも伝えられた。
「まさか」
「敵による偽の電文では」
内容が信じられず幕僚の間では疑念を持つ者もいた
「ですが、呉鎮守府と連合艦隊からの正式な通信です。それと」
「なんだ」
「傍受班が、陸軍、第二総軍の通信が投下直後より途絶しているとの報告が。広島近辺の部隊の通信もなく、傍受しても広島の被害をつたえるものだけです」
大和には通信を傍受する部署がある。
敵の通信を傍受することが主だが、味方部隊の動向を確認するために、味方の通信も傍受している。
その中には陸軍も含まれている。
第二総軍は本土決戦の為に、西日本の全地上部隊を指揮するために作られた部署であり、司令部は広島に置かれていた。
膨大な部隊を指揮統率するために常に通信している部署だ。
そこが途絶したとなれば、事実だと理解した。
「どうしますか」
思わぬ事態に動揺が走る。
「作戦を続行しましょう」
佐久田が言った。
「ここまで来て、中止には出来ません。それに我々の目的は沖縄の救援です。引き返しても何も出来ません」
「確かにな」
「もし、敵の新型爆弾が我が艦隊に落とされたら」
「報告を聞く限り、爆弾の威力は十数キロ程度です。中心に落とせばまるごと壊滅させる事が出来ますが、複数の部隊に分けている以上、被害は局限出来ます」
「もし連続で使用されたら」
「いえ、状況からして数は少ないようです」
「何故言い切れる」
「もし、多数の新型爆弾を用意出来たのなら。すぐに他の都市を攻撃するハズです。試作型で用意出来たのが一発のみ。あっても投下には数日の準備が必要なのでしょう」
佐久田の意見は推測だったが、理解出来ない話しではなく落ち着きを取り戻した。
「作戦を続行する。全艦沖縄へ行くんだ」
「了解、全艦に伝えます」
第一機動艦隊第一遊撃部隊は予定通り沖縄へ向け、進軍を続けた。
「脱落艦はいないか?」
「現在の所、報告はありません。沖縄戦が始まってから何時出撃が命じられても良いように整備を進めて参りましたから」
報告を聞いて伊藤は安堵した。
物資不足により艦隊の整備部品が足りないと聞いていた。
だが機関兵や工廠の職人達が、日夜整備して最高の状態にしてくれたようだ。
心配なく進む事が出来る。
「電探担当艦より報告! 電探に反応あり! 後方より近づく編隊あり」
「対空警戒!」
電測参謀――開発され戦況を左右するまでになった電探を扱うために新設された役職の浜野力少将が報告し森下が命じる。
浜野大佐の事は疑っていない。
二期上にして十年に一度の天才と言われた人だ。
海兵入学時から主席を維持し、卒業後はアメリカの大学へ留学、三年かかる課程を二年で終えた天才だ。
これまで、表舞台に立ったことはなかったが、電波兵器の開発に従事していたためだ。
浜野大佐のお陰で、電探の性能は向上し、多くの部下が助かっている。
海軍の人事のため昇進が遅れていたのは、残念な事だ。
本来なら本土の研究所で新たな電測兵器を開発して欲しいのだが、決戦に臨むにあたり、従軍して貰った。
おかげで、電探兵器に心配は無い。
「間もなく視認距離に入る」
浜野の言葉はすぐに現実のものとなった。
後方から、多数の航空機が接近してきた。
「報告! 後方より接近するのは味方戦闘機! 紫電改です!」
見張りの報告と、上空を通過する機影、上面が緑で仮面が白い塗装。翼の両端には赤い日の丸。
紛れもない味方機に艦橋に安堵の空気が流れる。
「宇垣君の上空援護か」
連日の攻撃で稼働機が少なくなっているはずだが、無理をして出してくれたようだ。
やがて、大和上空に零戦改とは違うシルエットの機体、紫電改、三四三航空隊の編隊が通り過る。
友軍機の姿に乗員達は、喜び手を振る。
柱島停泊中、米軍機の空襲を受けた事もあり、最悪、上空援護なしで沖縄へ突入すると思っていただけに、味方機の到着は、艦隊を喜ばせた。
甲板の配置に就いている者は、久方ぶりの味方機に感激のあまり手を振っている。
「徳之島基地より打電! 我が艦隊に向け北上する大編隊を探知! 機数三〇〇!」
針路上にある徳之島基地の電探網が米軍機を探知したようだ。
「一三号電探、探知始め!」
「一三号電探、探知めます」
「戦闘配置に付きます」
指示を出した森下が伊藤に報告する。
「操艦を頼みます」
「お任せくださいっ!」
慈父のような静かに答える伊藤に、森下は不敵に笑い敬礼すると上の防空指揮所へ上がっていった。
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