第五〇九混成部隊

指令書


発 ハンディ陸軍総参謀長代理 宛 スパーツ陸軍戦略航空軍司令


1.第20航空軍第509混成群団は、1945年8月3日ごろから以降、天候が許し次第、目標:広島、小倉、新潟、長崎のうちの一つに、テニアンへ分乗して運び込まれた最初の特殊爆弾を目視攻撃により投下することとする。この爆弾の爆発効果を観測し記録する目的で、陸軍省から派遣した軍と民間の科学者要員を運ぶためには、余分な機を爆弾搭載機に随行させることとする。これらの観測機は、爆弾の爆発点から数マイルの距離にとどまることとする。


2.計画要員によって準備が整い次第、上記の目標の上に追加の爆弾を投下することとする。上に列挙した以外の目標に関しては、追って指示を与える。


3.この兵器の対日使用に関する一切の情報を発表する権限は、陸軍長官および合衆国大統領だけが保有することとする。前線の司令官によるこの主題に関する声明や情報の発表は、事前の特別な許可なしには、行ってはならない。一切の報道記事は、陸軍省に送って特別な検閲を受けることとする。


4.上記の命令は、合衆国陸軍長官と参謀総長の承認の下に、その指示によって貴官に発せられる。貴官はこの命令書の写し1通をニミッツ提督に、情報として送達されたい。


1945年7月25日


マンハッタン工兵管区司令官 レスリー・グローブス准将




「機体、停止しました」


「よし、エンジン停止。機材の確認が終わったら降りて良いぞ」


 テニアン島北飛行場に定められた駐機位置に愛機エノラゲイを止めたティベッツ大佐が部下に命じると乗員達は降りていった。

 今日も何時もの訓練飛行。

 最初こそ本土爆撃に充てられないことを残念がっている乗員もいたが、連日の損害を見て自分たちが訓練にあてがわれていることに感謝するようになっている。

 特に、沖縄戦が始まってからは、日本軍の航空基地がある鹿屋への爆撃が多くなった。

 現在鹿屋には日本軍最強の航空部隊が集結しており、激しい迎撃を行っている。

 損害も大きく三割が撃墜あるいは帰還後、機体が廃棄されるほどだ。

 撃墜されても敵地だと潜水艦が回収してくれる保証はない。

 哨戒用の飛行艇が出ているが、日本機に攻撃される事も多く、生還率は低い。

 その現実を知っている、エノラ・ゲイの乗員は自分たちの状況に満足していた。

 一時は損失に対する補充の為に他の航空隊へ送られるという話しもあったがティベッツ大佐の反対によって阻止されている。

 それだけでも素晴らしい上官だ。

 何の為の訓練を、パンプキンとか言う四トンもある巨大爆弾を積み込んで投下した後155度旋回と急降下を行うという意味不明な飛行をしているのか分からないがそんな事はどうでも良い。

 生きていられるのならそれでいい。

 だが、この日は違った。


「ティベッツ大佐。ルメイ少将がお呼びです。司令部に出頭してください」

「了解した」


 すぐに第20航空軍の司令部へ向かう。

 先の日本軍のマリアナ奪回戦で大きな被害を受けたが、再進出したルメイはすぐに精力的に働き基地機能を回復。

 再び日本本土への空襲を行わせた。

 相変わらず硫黄島からの空爆を受けているが、ルメイは逃げる事無く指揮をしている。

 日本軍の迎撃が激しくB29に損害が出ているが、士気が落ちないのはルメイが身を危険に晒しているからと言われていた。


「ティベッツ大佐出頭しました」


 すぐに出頭するとティベッツ大佐にルメイは言った。


「投下が決まった、6日に広島だ」

「京都ではないのですか?」


 盆地である京都は、原爆の威力を最大限に高めるとされていた。

 だがルメイは首を横に振る。


「京都など神社が一杯あるだけで軍事施設はない。広島は軍施設があり軍需工場も多く効果的だ。ここを第一目標にせよ。攻撃が不可能な場合は、小倉、長崎を目標にするのだ」


「了解しました。しかし、届いて良かったですな。インディアナポリスが撃沈されたと聞いた時は絶句しましたよ。他の艦にも積んで輸送しておいて本当に助かりました」

「リスク分散は基本だ。全ての卵を同じ籠に入れるなど愚かだ」

「司令官の深謀遠慮には感服いたします」

「当然のことだ。だが最後にミスを犯されても困る。確実に投下し任務を全うせよ」

「お任せください。私自ら投下します」

「やはり行くのか」

「これほどの大任、他の者に任せたくありません」

「気をつけて行け」


 にやりと笑うルメイから渡された命令書第13号をチベッツは受け取ると、チベッツは退室した。

 命令書は読みはしなかった。

 内容はチベッツ自身が起草したものであり、あとは許可、命令下達を待つだけだった。





野戦命令13号


1. ここに挙げた以外の味方機は、攻撃時刻の4時間前から6時間後までの間は、この攻撃のために選ばれたどの目標に対しても、50マイル以内に入ってはならない。


2. 第20航空軍は、8月6日に、日本の目標を攻撃する。


3. 第313航空団、第509混成部隊:

 (1) 第1目標: 広島市街地工業地域。

  (a) 照準点: 063096。 参照:XXI爆撃機集団リト・モザイク 広島地域、No.90.30-    市街地。

  (b) 攻撃始点: 北緯34°24′-東経133°05′30″。 〔広島県三原〕

  (c) 離脱点(目標を攻撃した場合): 少なくとも150度の右旋回後、北緯34°00′    -東経133°34′。 〔愛媛県川之江-伊予三島〕

(2) 第2目標: 小倉造兵廠および小倉市。

(3) 第3目標: 長崎市街地域。

(4) 必要兵力:

 (a) 攻撃兵力: 3機。

 (b) 予備機: 1機、失敗の場合に備えて確保された沖縄北飛行場に進出させておく。

 (c) 気象観測機: 3機、それぞれの目標に1機を派遣する。

(6) 航路:別紙参照

(10) 搭載爆弾量と特殊装備: 第509混成部隊指揮官により指定された通りとする。

(11) 目視攻撃だけを行うこと。


4.この作戦に対しては、作戦任務番号は付けない。記録の目的には、特殊爆撃任務13番とする。




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