米海軍の対応
「敵艦隊の針路は分かるか」
報告を受けたスプルーアンスはすぐに聞き返した。
「敵艦隊は三つの艦隊に分かれて進撃中。一つはマリアナ方面へ、もう一つは東シナ海方面へ。そして残りの一つはここ沖縄に向かっています」
「どういうことだ」
スプルーアンスは海図上に敵艦隊の位置と針路を記入して戸惑った。
兵力の分散は避けるべき事だ。
第五艦隊は複数の部隊に分かれているが、これは所属艦艇が多すぎるため全体を統率するのに複数に分ける必要があるからだ。
それでも沖縄攻略という目的の為に動いており、沖縄周辺に展開している。
だが、日本艦隊の動きは、バラバラな方向へ向いている様に見える。
「マリアナと沖縄への同時攻撃を考えているのか」
「戦力の分散になります」
「だが、後方、補給線を寸断する事ぐらいは出来るだろう」
「確かに」
日本軍の作戦は42年後半から変わらず、しかも厄介だ。
後方を攻撃して米軍の補給体制を混乱させ、そこへ主力を突入させる作戦だ。
分かっていても、後方に兵力を貼り付けておけるほど米軍の戦力は膨大ではない。
必ず弱点が出来てしまい、そこを日本軍に衝かれていた。
「敵の機動部隊を撃滅するために空母を差し向けようと思います」
「だが、迫ってくる敵の主力、モンスターである大和をはじめとする戦艦部隊の相手はどうする」
「幸い、空母はいません。我々も戦艦部隊で対抗しましょう。戦艦部隊の編成は既に済んでいます」
敵戦艦の突入に備えるためにデヨ少将に戦艦部隊の編成と準備を命じていた。
「向かってくる日本の戦艦部隊にはデヨ少将に迎撃を命じ。日本の機動部隊にはマッケーンの空母機動部隊を充てます。これでお終いです」
全力で迫ってくる日本艦隊を迎撃させたいが、マッケーンの元には台風から避難させる小型の駆逐艦も含まれている。
それに嵐の中で艦載機の発着艦は不可能だ。台風の影響のない海域から航空機を飛ばすためにも離脱させる必要がある。
日本の機動部隊を仕留めた後、日本戦艦部隊を襲撃すれば良い。
万が一間に合わなくても、戦艦部隊が仕留める。
いや、恐らく最後の戦艦決戦となる戦いには戦艦のみで戦わせたい。
スプルーアンスは、走望んでいた事もあり、マッケーンの空母部隊には日本の機動部隊を相手にさせることにした。
「良いだろう、それでゆきたまえ」
ニミッツは追認した。
部下に任せたら口を出さないのがニミッツのやり方だ。
沖縄戦が長引いたため、自らやって来て命じる事になったが、本来ならやりたくない。
一度任せたのに口出しする野など相手は勿論自分の能力さえ、人物評価眼がないことを証明するだけだ。
何より、ニミッツ自身も東郷を、日本海海戦への憧憬があり戦艦部隊の戦いを実現させたかった。
しかし微妙な齟齬が生まれる。
「空母への攻撃をおこなえだと」!
スプルーアンスから命令を受けたマッケーンは怒り狂った。
確かに空母を撃沈するのが空母部隊の役目だ。
だが、敵の戦艦を撃沈するのは海軍軍人の誉れだ。
あのモンスターを撃沈出来ないのは不満でしかない。
「しかしスプルーアンス提督からの命令です」
「分かっている」
暫しマッケーンは考えて命じた。
「攻撃命令は日本艦隊への攻撃だな」
「そうですが」
「敵の空母だけでなく戦艦も攻撃しなければならないな」
「しかしそのような命令は」
「敵の戦艦も機動部隊の一部だ。敵は機動部隊で攻撃した後、戦艦部隊を突入させている。これを撃滅しない限り、安全は確保出来ない」
「では」
「攻撃隊の一部をモンスター、日本戦艦部隊へ向けろ」
「宜しいのですか」
「これは命令だ」
「了解しました」
マッケーンの命令により、一部の飛行隊が大和攻撃へ向かう。
ミッドウェー級空母六隻は通常より搭載機を多く乗せていたこともあり、大和攻撃に一部を割いても向かわせる事は出来る。
その分、空母への攻撃隊は減るが、マッケーンの知ったことではなかった。
このことをスプルーアンスが知ったのは攻撃隊が出て行った後だ。
命令違反をスプールアンスがマッケーンに問い詰めるとマッケーンが問いかけた。
「貴方がやられますか? それとも我らがやりますか?」
「You Take Them」
――貴官らがやれ
迷った後、スプルーアンスは米海軍史上もっとも簡潔な命令文を出した。
スプルーアンスが疲れていたことは否定できない。
長引く沖縄戦、度重なるカミカゼと空母とピケット艦の喪失。
そして、ここに来ての日本艦隊の攻撃。
度重なるアクシデントにスプルーアンスの精神は重圧に耐えきることが出来なくなりつつあった。
そしてこの時一つの歴史的事件が起こった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます