ポツダム宣言
「大統領閣下。これ以上戦争が長引けば、アメリカの国力は低下し、ソ連が相対的に大きくなります」
なおも頑なな大統領の意見を変えようとグルーは話を続ける。
「日本を無条件降伏させたとしても、ソ連と対峙することになり、この戦争以上の重荷を合衆国が背負うことになりかねません」
「今戦っているのは日本であってソ連ではない。それに、これは決定事項だ。そもそも、皇室を維持したとして役に立つかどうか疑問だろう」
「それはありません」
大統領から皇室を軽視する発言にグルーは焦った。
恐らくバーンズの入れ知恵だろう。
何も知らず自分の憶測だけでものを述べる、しかも過激な発言で注目を浴びようとする危険な行為だ。
友人であり私的な助言者でもあるバーンズの意見にトルーマンは耳を傾けすぎている。
そしてバーンズは、外交に関しては素人だ。
産業の合理主義者かもしれないが外国国民の考え方に無頓着だ。
利用価値があるかどうか確認してから、占領してから皇室の維持をするか決める、というのは確かに合理的だろう。
だがそのやり方では、日本人の精神を逆なでしかねない。
「大統領、どうか日本に降伏を促すため、受け入れやすくするためにも皇室の護持と日本の独立の確約を」
「ダメだ。天皇の地位を確約することは出来ない。宣言には盛り込まない」
「閣下」
「これは決定だ」
「では沖縄を占領してからにしては。小島一つも占領出来ないうちに宣言など、無意味では」
何とか宣言を先延ばしにしようとグルーは試みた。
皇室維持を宣言しなければ、日本は徹底抗戦に向かってしまう。
一度先延ばしにして皇室の維持を盛り込んでから宣言しようとする。
「だめだ。ポツダムでの会談は間もなく終わる。日本の反応も見たい。ここで宣言する。沖縄攻略は急がせる。現場には急ぎ攻略するよう命じる」
「大統領、まさかあなたは日本が拒絶する事を願って、ポツダム宣言を出すのでは」
「以上だっ!」
トルーマンはグルーとの話を切り上げた。
そして七月二六日、ラジオにより全世界に向けてポツダム宣言が出された。
ポツダム宣言
合衆国、中国及び連合王国首脳の承認による日本の降伏のための定義及び規約
1945年7月26日、ポツダムにて
1. 我々合衆国大統領、中華民国政府主席、及び英国総理大臣は、我々の数億の国民を代表し協議の上、日本国に対し戦争を終結する機会を与えることで一致した。
2. 3ヶ国の軍隊は増強を受け、日本に最後の打撃を加える用意を既に整えた。この軍事力は、日本国の抵抗が止まるまで、同国に対する戦争を遂行する一切の連合国の決意により支持され且つ鼓舞される。
3. 世界の自由な人民に支持されたこの軍事力行使は、ナチス・ドイツに対して適用された場合にドイツとドイツ軍に完全に破壊をもたらしたことが示すように、日本と日本軍が完全に壊滅することを意味する。
4. 日本が、無分別な打算により自国を滅亡の淵に追い詰めた軍国主義者の指導を引き続き受けるか、それとも理性の道を歩むかを選択すべき時が到来したのだ。
5. 我々の条件は以下の条文で示す通りであり、これについては譲歩せず、我々がここから外れることも又ない。執行の遅延は認めない。
6. 日本国民を欺いて、世界征服に乗り出す過ちを犯させた勢力を永久に除去する。無責任な軍国主義が世界から駆逐されるまでは、平和と安全と正義の新秩序も現れ得ないからである。
7. 第6条の新秩序が確立され、日本国の戦争遂行能力が破砕されたことの確証があるに至るまで、連合国は日本国領域内の諸地点を占領するであろう。
8. カイロ宣言の条項は履行されなければならず、又日本国の主権は本州、北海道、九州及び四国並びに我々の決定する諸小島に限定されることになる。
9. 日本軍は武装解除された後、各自の家庭に帰り平和・生産的に生活出来る機会を与えられる。
10. 我々の意志は日本人を民族として奴隷化し、また日本国民を滅亡させようとするものではないが、日本における捕虜虐待を含む一切の戦争犯罪人は処罰されるであろう。日本政府は日本国国民における民主主義的傾向の復活を強化し、これを妨げるあらゆる障碍は排除されるし、言論、宗教及び思想の自由並びに基本的人権の尊重は確立されるであろう。
11. 日本は経済復興し、課された賠償の義務を履行するための生産手段、戦争と再軍備に関わらないものが保有出来る。また、将来的には国際貿易に復帰が許可される。
12. 日本国国民が自由に表明した意志による平和的傾向の責任ある政府の樹立を求める。この項目並びにすでに記載した条件が達成された場合に、占領軍は撤退するであろう。
13. 我々は日本政府が全日本軍の即時無条件降伏を宣言し、またその行動について日本政府が十分に保障することを求める。これ以外の日本国の選択肢は、迅速且つ完全なる壊滅があるのみである。
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