インディアナポリス撃沈


 伊五五八潜、伊五〇〇型潜水艦はドイツのXXI型潜水艦を元に作られた潜水艦だった。

 インド洋での潜水艦の活躍を見たヒトラーが喜び、更なる戦果を挙げることを求めてデーニッツが開発していた新型Uボートの設計図を日本に提供させた。

 その設計図を元に北山が準備し、北回りでやって来たU2553を見て日本海軍が作り上げたのが潜高型伊五〇〇型だった。

 当初ドイツは潜航中でも高速推進可能なワルター機関を搭載した潜水艦を目指していたがワルター機関の開発に失敗。だが、水中速力を出すために抵抗の少ない流線型の船体は通常動力でも十分に活かせた。

 8の字型に作られた耐圧殻の下側に多数のバッテリーを搭載する事で蓄電能力を確保し大出力と長時間稼働を実現させ、水中速力一六ノットを発揮できる。

 これまでの伊号潜水艦なら全速では一時間から二時間でバッテリーを消耗してしまうが、伊五〇〇型なら半日は全速航行出来る。

 攻撃を行っても全速で離脱して十分に離れる事が出来る。

 襲撃でも攻撃位置へ素早く移動する事が簡単で、襲撃の機会が多いので橋本は気に入っている。

 橋本は伊五五八の性能を遺憾なく発揮させ素早く攻撃位置へ移動させる。


「敵艦、進路変更、二時方向へ向かいます」


「反転! 追尾しろ!」


 敵艦が進路変更、潜水艦を警戒してジグザグに動いているようだ。

 確かに、のろまなこれまでの潜水艦なら数ノットしか出せず、ジグザグ運動だけでまくことは簡単だ。

 だが、伊五〇〇型ならかなり移動する事が出来るので追随することも簡単だ。


「潜望鏡深度に浮上、攻撃用意」


 橋本は浮上して、潜望鏡を上げ目視で目標を確認する。

 見えた艦影からしてポートランド型重巡洋艦だ。


「敵艦はもうすぐ変針するはずだ」


 聴音で得たこれまでの行動パターンから、ソロソロ敵艦は次の変針をするはずだ。

 此方に変針してきた所を襲撃するのが橋本の狙いだ。

 予想通り、敵艦は進路を変更して伊五五八へ向かってきた。


「よし、敵艦が予想通り向かってきたぞ。攻撃する。一番から三番、三度の角度を付けて同時発射。三秒おいて四番から六番同時。距離一五〇〇、雷速四八ノット、深度四に調整」


「調整完了。発射準備良し」


「撃て!」


 橋本の合図で最初に三本、三秒おいて更に三本の魚雷が発射された。

 雷速四八ノット――、一秒間に二四メートル進む。

 一五〇〇メートル先なら六三秒で到達する。

 橋本は潜望鏡を見たまま、その時を待つ。


「時間です」


 水雷士が報告する。

 爆発音はない。失敗かと思った瞬間、敵艦の船体に水柱が上がり直後、敵の主砲塔から火柱が吹き上がり爆発音が響き渡った。


「命中! 命中!」


 重巡洋艦を仕留めた事に歓声が上がる。

 直後再び爆発音が響く。

 二回目の魚雷が命中したのだろう。

 合計三本。これで敵艦は仕留められたハズだ。


「艦長! 一番から三番まで再装填完了」


 XXI型と同じく油圧を使った魚雷の自動再装填装置を装備しており、三門なら五分、全門でも十分で再装填出来る。


「前半分が沈み敵艦の傾斜が大きくなっている。これは沈められたな。再攻撃の必要はない」


 命中から一二分後、インディアナポリスは転覆し沈没した。

 橋本は敵の救援が来る事を恐れ、離脱を命じた。

 この戦果を報告したが第六艦隊司令部の反応は渋いものだった。

 本土を焼こうとするB29のための物資を搭載した輸送船を沈めず重巡洋艦程度を撃沈するために六本もの貴重な魚雷を消費するのは何事か、と考えた。

 アメリカの膨大な物資供給を遮断すればB29も重巡洋艦も空母も動けなくなるというのが戦争後期に入ってからの潜水艦部隊の考え方だった。

 そのため当初こそ橋本への評価は良くなかったが、重大な成果を上げたことを知るのは本人を含め戦後になってからの事だ。

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