湊川上陸作戦
「湊川へ敵が攻撃を激しく行っています」
「遂に来たか」
報告を受けた高級参謀八原は呟いた。
幾度も長が総攻撃を進言していたが、米軍が湊川方面への動きを見せていたため、中止させていた。
結局、上陸がなく、総攻撃を行おうとしている所へ、敵の艦砲射撃と爆撃が行われた。
「司令官、参謀長、敵の湊川上陸が予想されます。総攻撃は中止して第九師団には直ちに湊川に急行するよう命令します。また第八四師団は前線から退かせ予備として待機。湊川上陸が確認されたら、急行させます。第二四師団、第六二師団にも一部の部隊を移動出来るよう準備させてください」
「また空振りにならないか」
長は反対した。
米軍の上陸を撃退する事が第三二軍の任務だと思っていたし、目の前の上陸部隊を海にたたき落としたい。
上陸するか分からない敵に備える事など性に合わない。
「敵の攻撃を見過ごすわけにはいきません。それに上陸を許した場合、総攻撃どころではありません。総攻撃の最中に背面への上陸を受ければ全軍瓦解の恐れもあります」
「……わかった」
長参謀長は納得し、牛島満中将に報告する。
牛島は万事参謀に任せていたため、作戦案を承諾。
直ちに第九師団は、命令を受けた夜に元の守備位置に戻り、湊川への警戒を最大限にした。
その翌日、第二海兵師団が上陸を開始した。
予想されていたが、迅速な上陸に日本軍は半ば奇襲される形となった。
だが、予め第九師団が戻った事もあり、湊川の上陸地点から一歩も進ませずに済ませる事が出来たのは幸いであった。
第二海兵師団は上陸しても一キロ以上進軍する事は出来ず、上陸地点に留まることになった。
翌日になっても状況は変わらず、第二海兵師団の損害は増していくばかりである。
そして、二日目の夜、移動してきた第五砲兵司令部の砲兵戦力が第二海兵師団に集中した。
移動出来た部隊の数が第二七戦車連隊の五式砲戦車など機動力のある部隊のみで少なかったが、上陸兵力が少なかったこともあり砲火の集中はこれまでの上陸作戦で一番凄まじかった。
損害が続出する中、砲撃後には担当正面の第九師団の他、予備の第八四師団、増援として送られた第二四師団と第六二師団の応援部隊も加わった日本軍の総反撃が始まった。
「ツッコむぞ!」
船坂弘率いる部隊も突撃を開始した。
先の嘉手納での反撃で全身血まみれになって意識不明のまま部下に後送されたが、翌日目を覚まし、再び前線に出ていこうとした。
だが、湊川に敵が上陸したことを知ると、直ちに反撃に参加するべく起き上がったばかりながら長距離行軍を行い、攻撃に参加していた。
奇襲的な上陸で動揺した日本軍だったが上陸したのが一個師団とわかり、総反撃を決意。八原も後方の不安要素を払うべく総攻撃に同意したため可能な限りの戦力を集中して行われた反撃は凄まじく、第二海兵師団は大損害を受けた。
「我が軍劣勢、直ちに増援を求む!」
第二海兵師団は救援要請を出したがバークナーは却下した。
「我に余剰戦力なし。現有兵力で対応せよ。対応出来ない場合は撤退せよ」
予備の戦力である第二海兵師団を投入した上、飛行場確保の為に伊江島に出した第七七師団も激戦の最中であり送る事は出来なかった。
しかも弾薬が不足しており、補給もままならなかった。
激しく抵抗した第二海兵師団だったが、多勢に無勢となり、上陸地点の確保もままならず支援も望めない。
海兵隊は意地でも守り抜くつもりだったが、上陸二日目には既に一割を超す損害を受けていた。
これは通常なら責任を追及されるレベルの損害だ。
報告を受けたニミッツと海軍省の上層部は顔を青ざめさせた。
そこへ日本軍の反撃の報告もあった。
バークナーの反対意見と損害を抑えたいマーシャル総参謀長の意向もあり、ニミッツは陸海軍の対立を懸念して湊川からの撤退を決定した。
翌日より激しい艦砲射撃と航空支援の中、第二海兵師団は撤収し、湊川上陸作戦は終了した。
「作戦は大失敗だ。いらぬ損害を増やしただけだ」
作戦失敗を聞いたバークナーは、自分の反対を押し切って勝手に実行されたこともあり、批判的だった。
だが湊川上陸は無駄ではなかった。
第二海兵師団を追い返すために第三二軍は過半の兵を投入し、大損害を受けていた。
損害は、第二海兵師団とほぼ同じだったが、増援が望めない上、米軍より兵力で劣勢な第三二軍にとっては米軍以上に、損害は痛かった。
「この反撃で予備戦力が殆ど枯渇したのが痛かった。再度の上陸を警戒せねばならず、部隊を配置する必要があり一月は第三二軍の継戦能力を奪われた。厳しい一打だった」
と高級参謀であった八原は評価している。
しかも、連日の戦闘と移動により、第三二軍の将兵の多くは疲労していた。
「膠着状態を打開するには奇策ではなく正攻法以外ない。嘉手納正面への攻撃を進めるのだ」
以後、バークナーの正面攻撃案が採用され、激戦は続いていく
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