戦線膠着
「日本軍の防衛線を突破出来ません」
上陸から七日目、沖縄本島に上陸した軍団を率いるホッジ少将とガイガー少将は揃ってバークナー中将に訴えた。
嘉手納の海岸から先は平坦だが、日本軍の陣地が巧妙に構築されており突破する事が出来ない。
無理に前進しようものなら大出血を覚悟しなくてはならない。
「艦砲射撃と航空支援で何とかならないのか」
「無理です。幾ら叩いても、日本軍は反撃してきます」
石灰岩の硬い岩盤。
一見平野にい見えても所々岩堤があり、その裏側に構築された陣地を艦砲射撃で破壊する事が出来ない。
特に飛行場まで前進出来ないのが痛い。
本来なら既に飛行場を確保して運用出来るはずなのに奪うことさえ出来ていない。
そのため、陸上航空部隊を配備出来ず航空支援が足りない。
かといって、今から上陸位置を変更することも出来なかった。
「伊江島も確保出来ない」
初日に飛行場が確保出来なかったため、第七七師団にスケジュールを繰り上げて伊江島を攻略するよう命じた。
だが、伊江島に籠もる独立第四四旅団の激しい抵抗により飛行場確保どころか橋頭堡の確保も出来ていなかった。
ヨーロッパ戦線でピューリッツァ賞を受賞した従軍記者アニー・パイルも伊江島の浜辺で戦死しており、日本軍の抵抗は止みそうにない。
伊江島の飛行場も確保など遠い未来の話だ。
「閣下、進言します」
会議に参加していた第二海兵師団師団長が進言する。
第二海兵師団は予備として指定され、海上で待機していた。
「敵の背後、沖縄本島の南東にある湊川へ我が第二海兵師団が上陸し日本軍の背後を突くというのはどうでしょうか」
「それはいいな」
日本軍を挟撃出来る希望があり多くの幕僚が賛成した。
海軍側も状況打開のため、艦砲射撃を行える上、日本軍の戦力が嘉手納に集中している今、手薄と思われる湊川を攻撃する事で日本軍の崩壊を招けると考え、海兵隊の計画を支持した。
「だめだ」
だが慎重なバークナーは反対する。
「日本軍の目の前で兵力を分散させるなど出来ない。それに一個師団では日本軍の圧倒的な兵力の前に殲滅されてしまう」
慎重なバークナーは、僅か一個師団で攻撃する事に恐れを抱いていた。
アリューシャンでの成功経験、日本軍を圧倒する物量を叩き付けることによって最小限の損害で作戦を成功させる事にこだわっていた。
そして戦理上、バークナーの意見は正しかった。
「敵は嘉手納の方に大半を集めています。湊川への兵力配備は少ないでしょう。それに反撃を受けたとしても敵軍を我々に引きつける事が出来、嘉手納の防備を薄くし突破が容易になるでしょう」
「ダメだ。弾薬が足りない」
上陸初日に弾薬集積所を破壊されて弾薬が不足している。
また第三二軍の総攻撃に合わせて宇垣が掻き集めた特攻機による日本軍の航空反撃が行われた。
佐久田は無意味な攻撃だったと批判し、中止を命じたが、特攻機が突入したのは弾薬輸送船二隻。
搭載物が搭載物だけに大爆発を起こして撃沈。
大量の予備弾薬を失った第十軍は弾薬不足に陥っており、特攻機の戦果は決して無駄ではなかった。
米軍は窮地に陥ったのだから。
ここで新たに上陸作戦を敢行し、少ない弾薬備蓄を分けることをバークナーは躊躇った。
新たな上陸地点が出てきて補給体制が混乱し、主戦線に悪影響が出ることを恐れたのだ。
「海兵隊なら一個師団でも手持ちの弾薬で数日は持たせる事が出来ます」
「ダメだ湊川への上陸はなしだ」
予備兵力が第二海兵師団しかなく、投機的な作戦に投入するのは危険だ。
もし嘉手納正面で再び総攻撃があったとき増援に出せる兵力が無くなることをバークナーは危惧して作戦に反対した。
「いや、やってみろ」
だがバークナーの決定を同席していたパットンは覆した。
「このまま待機しているのも退屈だろう。出来るというならやらせるんだ」
「しかし、支援と補給が二分されます」
「このまま正面から攻撃を行っても打開出来そうにない。なら敵が思わぬ方向から攻撃を仕掛け、戦局を打開した方が良い」
「上手くいくとは思えませんが」
「そのような消極的な事でどうする。とにかく上陸させろ」
かくして、湊川上陸作戦の決行が決定した。
急な方針転換だったが、元々、湊川上陸作戦は計画されていた。
また囮作戦、敵兵力を誘引するために船団が何度も湊川への接近を行っており、皆川周辺の地理を把握していた。
そこへ新たな支援部隊を送り込み、艦砲射撃と航空支援で上陸地点周辺の制圧を行い、上陸作戦は展開される事となった。
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