五式砲戦車
天宮巽中将は支那派遣軍参謀で日中戦争に従軍したのち、満州で編成された第二四師団に赴任した。
穏やかな性格で階級を笠に着たような態度は取らず気さくな人物だった。
経歴通り、支那の専門家であったが、時局の切迫により、次々と部隊を南方へ引き抜かれ、一部はサイパンの戦いで玉砕した。
そしてマリアナ陥落後、師団主力も沖縄への配備が決定し天宮も共にやって来た。
「民家の接収を禁ず、兵舎は自ら構築せよ。沖縄の民間人に負担が掛からないよう振る舞え」
天宮師団長は沖縄県民の負担を考慮し、到着すると部下達に訓示。自ら実践した。
大陸で民間人を巻き込んだ戦いを行ったことを悔やんでいたからとも言われるが、温厚で忍耐強い師団長に誰もが親しんだ。
おかげで陣地構築も進み、上陸前にほぼ完成し、無傷に近い状態で迎え撃った。
「反撃開始!」
午前十時、第二四師団は隣接する第六二師団の一部部隊と共に米軍に対して反撃を開始した。
偽装した陣地から、海岸の影になっている掩体壕から、次々と速射砲と迫撃砲が引き出され、上陸する米軍の橋頭堡へ向かって放たれた。
橋頭堡を確保して内陸へ進撃しようとしたアメリカ軍は奇襲され、壊滅的な被害を受けた。
「あれだけの艦砲と空襲を受けてどうやって生き残ったんだ」
「硫黄島の戦いが花火大会に思えた」
生き残った海兵隊員が愚痴るほど激しい砲撃だった。
損害が続出し、海岸は血の川が流れた。
あまりの損害にターナーは先ほど送った報告書を悔いた。
だが、悔いても仕方ない。
直ちに反撃を命じ、占領地点の拡大を命じた。
「上陸を継続しろ! 上陸地点の周囲に艦砲射撃を行い、砲撃地点を一掃! その後陸上部隊の近くに航空隊を派遣し支援攻撃。日本軍の抵抗を粉砕し、前進を続けろ」
命令は直ちに実行され上陸は継続された。
硫黄島と違い、密林が生い茂るほかは真っ平らな平野を駆け抜けるのは簡単に思えた。
だが、日本軍は各所に対戦車壕などの陣地を構築し、激しく抵抗。
しかも真っ平らと言うことは上陸部隊も身を隠す場所もなく、日本軍の激しい砲撃の前に地面に伏せるしかなかった。
「戦車を前に出せ!」
シャーマンを中心とする戦車が盾となって前進し上陸地点を確保しようとした。
だが、そこへ日本軍は反撃した。
「何だアレは?」
前方に見慣れないシルエットの車両があった。
ヨーロッパ帰りの陸軍兵士の中にはドイツ軍の駆逐戦車に似たシルエットだと思ったも者もいた。
それは間違いなかった。
正面から発砲したのは確かに駆逐戦車と同類だった。
だが彼らは大した脅威ではないと判断した。
日本軍の装甲車両に大した車両はなく、背後に回られたら厄介だが、正面からは大丈夫と考えていた。
しかし、その車両の砲弾は正面からシャーマンの装甲を撃ち抜いた。
「馬鹿な! 一〇〇ミリクラスの大砲だと!」
撃破された仲間の破孔を、砲弾が貫いて作った孔を見て叫んだ。
間違いではなかった。
日本軍の切り札。五式砲戦車だった。
五式戦車の開発が遅延した上に、十分な大砲を載せられない、旋回砲塔の制作に時間が掛かることをうれいた日本軍は、量産性を重視して旋回砲塔を作らず固定砲のみの対戦車車両を作る事にした。
これが五式戦車だ
旋回砲塔を排除した事に寄り一〇〇ミリクラスを搭載出来た。当初は副砲を付けようとしたが開発期間短縮と生産性優先、付けたとしても主砲の衝撃で故障すると判断され主砲と機銃のみ搭載。
単純な方針故に開発も生産も簡単で沖縄に配備された。
一〇〇ミリを使う予定だったが、一二七ミリも余っていたので砲架を改良し両方の搭載を可能にした。
お陰で量産性が向上した。
一〇〇ミリ砲が故障した時、戦場後方で一二七ミリ砲に換装さえ行われた位だ――捕獲された戦車と搭載砲の製造ナンバーから判明している。
この時は戦車第二七連隊の一部が迎撃の為に出てきたのだ。
「退却だ! 連中から距離を取れ! 砲兵と航空隊にやらせろ」
距離を取ったあと支援の航空隊か日本軍攻撃を仕掛けるが、周囲の車両が上空へ向けて対空砲火を上げた。
砲戦車の車体を流用して対空機銃、それも大口径の二五ミリ三連装砲を取り付けた対空戦車だ。
周囲には対空陣地も設置されており、彼らが出てきて上空から襲撃してくる航空機を弾幕で追い返した。
追い返しても彼らの銃火は収まらない。
砲口を米軍地上部隊へ向け掃射を浴びせる。
激しい日本軍の攻撃を前に米軍上陸部隊は夕暮れまでに海岸から数百メートル前進するのがやっとであった。
五式砲戦車の詳しい諸元は
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