第三二軍 防備計画

「第二四師団より報告! 敵部隊は牧港から嘉手納に至る海岸線にて上陸を開始!」


「遂に来たか」


 首里の司令部で報告を聞いた牛島は呟いた。

 慶良間諸島と神山島に上陸したと聞いてから上陸を覚悟していた。

 だが、いざとなると内心動揺する。

 しかし、いつものように冷静に振る舞い牛島は参謀長である長に語りかけた。


「参謀長、お願いします」


「はい! お任せを!」


 長勇は自信たっぷりに答えていう。

 第三二軍は


第三二軍戦闘序列

  司令官 牛島満中将 参謀長 長勇少将 高級参謀 八原大佐

 歩兵第二四師団 嘉手納配備

 歩兵第六二師団 牧港配備

 歩兵第九師団 那覇、小碌配備

 歩兵第八四師団 予備

 独立混成第四四旅団 伊江島配備

 第三遊撃隊 金武配備

 第四遊撃隊 名護配備

 第五砲兵司令部

 戦車第二七連隊

 海軍沖縄方面根拠地隊


 と比較的優れた兵力を集中していた。

 去年のマリアナ陥落後、第三二軍参謀長に就任した長勇少将が就任直後大本営参謀本部に乗り込み「沖縄本島には五個師団を増強せよ! 吾輩の意見を採用せず、ために沖縄が玉砕するようになれば、参謀本部は全員腹を斬れ」と怪気炎を上げたためと言われている。

 流石に兵力不足で満額とは行かなかったが四個師団と一個旅団、そして充実した砲兵が配置されていた。

 これが長の自信の根拠だった。


「八原! お前の作戦通りでいいな!」


「はい、各師団には嘉手納及び牧港へ向かうように命令しましょう。上陸地点が広範囲のため、兵力は牧港付近に集中させますが」


「よし! 昼頃までに移動計画を準備して通達してくれ! 今夜中に移動して、明日の夜には反撃だ!」


 八原は連合国軍の上陸点を小禄、牧港、嘉手納のいずれかと想定。

 三か所の上陸予想地点にそれぞれ一個師団ずつ配置。連合国軍が上陸してきたら、その担当師団が構築した陣地に立て籠もり上陸軍を橋頭堡にて阻止。その間に残りの師団が上陸地点に向けて夜間(航空攻撃による損害を避けるため)進軍し集結。

 上陸二日目の夜に砲兵の全力を結集し橋頭堡の殲滅射撃を実施。 

 その後歩兵が突撃し上陸軍を粉砕するという作戦だ。

 この計画に基づき、一年以上前から各師団に機動の猛訓練を行わせていた。

 新たに配備された八四師団は、到着してから時間が短かったため予備として配備され、どこにでも急行出来るようにしていた。

 連合艦隊の到着に合わせて総反撃する事も考えられたが、積極派の長も持久派の八原も二日目の反撃にこだわった。


「敵が無防備な状態で撃滅しなければ以後の戦闘に支障あり」


 敵が一番無防備な上陸直後に攻撃し大打撃を与えるのが、後の戦闘で戦力不足になるよう追い込むことが狙いだった。

 そのためにも、そして来援するか分からない連合艦隊に頼るより自力でどうにかすることを第三二軍は決めており、作戦計画もその筋書きに沿って策定している。


「敵上陸地点周辺の部隊は大丈夫か」


 部下に全てを任せる牛島が珍しく尋ねる。

 米軍が上陸前に猛烈な艦砲射撃を行う事はマリアナ、フィリピン、硫黄島で報告されている。

 洞窟陣地に籠もらせているが、被害がないか牛島は心配だった。


「ご安心ください司令官。各陣地は強固な陣地を構築し、爆撃に耐えております」


 長は、海際で上陸軍を阻止するため強固な陣地構築を行わせた。

 幸い沖縄の土地は硬い石灰岩の地層が多く、掘り抜けばそのまま強固なベトンの陣地のように使える。

 そこで長は掘り抜くために大本営に鑿岩機20台の支給を要求し、大本営も確約した。

 ただこれには余談があるいつまで待っても鑿岩機が到着せず、長は大本営や陸軍中央から何らかの要求や連絡があるたびに鑿岩機をしつこく要求し続けた。

 その内大本営や陸軍中央では長と言えば鑿岩機が連想されるほど有名となった。

 約束しながら、いや必要な物品を送ろうとしない大本営と陸軍中央の怠慢を示すエピソードだが、幸いにも、事情を知った太田が佐久田を通じて北山から鑿岩機を調達し沖縄へ急送。

 上陸前に陣地構築作業を終わらせる事に成功した。

 お陰で、現在の所、大きな被害は出ていない。

 報告を受けてから一時間後、長は時計を見て牛島に報告する。


「間もなく、上陸地点において最初の反撃が行われます」




 米軍は夜明けより沖縄本島へ艦砲射撃を行い、午前九時より歩兵第七・第九六歩兵師団と海兵第一・第六海兵師団による上陸を開始した。

 当初は日本軍の反撃はなく、順調に進んだ。

 第一〇軍の現地指揮官の中には日本軍の抵抗が既に崩壊してると感じている者も出てきた。

 のような現地の空気を反映してか、海軍上陸軍司令官リッチモンド・K・ターナー中将は太平洋艦隊司令チェスター・ニミッツ大将に「私の頭がおかしくなったのかもしれないが、当地における日本軍は戦闘を行う意思がない模様である」と冗談まじりに報告した。


「ターナーは何を考えている」


 作戦の為、グアムに太平洋艦隊司令部を進めたニミッツはターナーから受け取った報告書の訂正を求めた。


「フィリピンと硫黄島の事を既に忘れたのか。日本軍は上陸時点で反撃はせず、我々が浜辺に集まったところを攻撃するのだぞ」


 ニミッツの判断は正しかった。

 上陸開始一時間後の午前十時、嘉手納を担当地区とする日本側防衛部隊、第二四師団の反撃が開始された

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