英国太平洋艦隊

 六月二三日


 この日、連合軍による沖縄周辺への空爆が行われた。

 上陸作戦前に陣地や飛行場を破壊しつくし、作戦を迅速に進めるためだ。

 日本側は、反撃の為の航空部隊を配備していたが、圧倒的多数の前に制空権を維持出来ず、航空隊は残存機を本土、中国大陸、台湾へ撤退させた。

 あとは対空砲以外、アメリカ軍へ反撃する存在はいなかった。


「このような形でまた帰ってくるとはな」


 先島諸島攻撃の英国太平洋艦隊司令長官ローリングス大将は呟いた。

 海軍のエリートコースを歩んできたローリングスは東京での駐在経験があった。その経歴を買われて任命された部分もあるがかつての赴任国を攻撃するのは少し気が咎める。

 勿論、今日本は大英帝国の敵であり、手を抜くことはない。

 ただ、日本本土攻撃が英国に必要かどうか疑問の残るところだ。

 日本軍が急速に撤退しソコトラ島とスリランカを奪回したが、インド洋では日本の潜水艦がいまだ暴れている。

 インド国民軍の侵攻もあり手を抜いて良い状況ではない。

 普通なら大英帝国の国力の源であるインドとの通商路を回復するのが当面の課題だ。

 しかし、チャーチルと彼に選挙で勝ちつつあるアトリー次期首相は、英国が戦後の権益確保、相応の獲物を得るには主戦場である太平洋で何らかの手柄を上げる必要があると判断した。

 戦後の秩序は確実にアメリカに移る。

 残念な事だがアメリカ中心の世界となる。

 英国には無理だ。二度の大戦で疲弊しており、数年、いや数十年は返り咲くことは不可能だ。

 それどころか戦争が終わっても総力戦体制を徹底したため英国本土で配給制を続ける必要があるほど英国の力は失われている。

 アメリカのレンドリースがなければ国民を生かすことが出来ないくらいに疲弊しているのだ。

 回復するにはインドとのシーレーンを再開する必要があるが、インドの権益をアメリカに認めさせなければ、インドを英国が保持する事は出来ない。

 だから、アメリカが英国を無視出来ない手柄を、彼らが重視する太平洋で見せつける必要があった。

 インド洋で日本軍を相手に勝利しても太平洋に目を向けているアメリカ軍は振り返りもしない。

 だからこそ太平洋に日本本土近海に有力な艦隊が派遣された。

 旗艦である就役したばかりの戦艦ヴァンガードの他、キング・ジョージ5世級戦艦キング・ジョージ5世とハウ、インプラカブル級空母インディファティガブルとインプラカプル、そしてオーディシャス級空母オーディシャスとアークロイヤル。

 護衛として巡洋艦5隻、駆逐艦15隻という大艦隊をインド洋ではなく太平洋に大英帝国が送り出したのは、そういった事情からだ。

 ローリングス自身、内心納得はしていなかったが、命令とあらば、英国の国益になるのなら従う。

 だから彼は今、先島諸島に来ていた。


「まあ、それほど攻撃は受けまい」


 本土に近い沖縄ではなく、反対側の先島諸島攻撃を命じられたのは良かった。

 台湾に近いが本土より航空機の襲来は少ないと判断してあてがわれた。


「敵機来襲!」

「対空戦闘用意!」


 防空圏を突破して攻撃機がやって来たようだ。

 アメリカより艦船が少ない上、戦闘機の数も少ないので、突破されるのは致し方ない。


「あそこだ!」


 見張りが指を指した先で日本の航空機が急降下して、オーディシャスへ向かって行く。


「あいつ爆弾を落とさないぞ!」


「神風だ!」


 そのまま爆弾を投下せず日本機はオーディシャスへ突入し、大爆発が起こった。

 英国軍人らしからぬ声が上がるが、オーディシャスは炎上しつつも大きな被害は見えなかった。

 火災は放水と共に徐々に収まり、鎮火されていった。


「オーディシャスより報告。飛行甲板に敵機命中も装甲は破られず、本艦異常なし。艦載機に被害あるものの二時間後には発着艦可能となる予定」


 司令部に安堵の溜息が響く。


「これでアメリカも我が軍を無視出来ないでしょう。我々が強靱な空母を持っている事で支援出来ます」

「だといいが」


 装甲空母は英国が世界で初めて送り出した艦艇だ。

 だが日本海軍がミッドウェー後に大鳳型を就役させ投入すると唯一ではなくなった。

 後発の日本側が大型の上、艦載機も優秀なため、英国軍はインド洋から叩き出された。

 更に信濃型が投入されると差は大きくなった。

 英国も新たに装甲空母を送り出したが、もとより小さい船体のため、同じ隻数でも日本とでは搭載機の数が違うため相手にならない。

 ようやくオーディシャス級を建造したが、それでも小さく、ジブラルタル級へ移っている。

 それでも連合国唯一の装甲空母として価値があるはずだったが、アメリカがミッドウェー級を投入した為、相対的に地位は低くなっている。

 モンタナ級の船体を応用して作られたこの大型空母は一四五機という史上最大規模の搭載機数を誇っている。

 さらに飛行甲板と格納庫の主甲板それぞれに装甲を張っており二重の防御としている。

 先の日本本土空襲でも日本軍の攻撃に耐えきり、反撃までしている。

 その前には英国艦隊の空母など霞んでしまう。

 エセックス級のように大損害を受けにくいが、小さいため攻撃力も搭載力も小さく戦力としてはイマイチだ。

 搭載機が同じアメリカ製のため共同作戦が行えるが、これは英国が艦載機の開発に失敗したためアメリカから供与して貰う必要があったからだ。

 とても英国独自の戦果を挙げるのは難しい。


「困難な闘いだな」

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