呉大空襲の成果とアメリカの戦艦戦力:沖縄戦

「成果は?」


 作戦終了と補給の為に日本から離れつつあったスプールアンスは戦果を部下に尋ねた。


「日本本土の飛行場は破壊しました。呉への攻撃は敵の迎撃機により妨害されたため失敗しましたが、概ね作戦目的を達成出来たかと」


「在泊艦艇を撃破出来なかったか」


 沖縄への船団突入を防ぎたかったが、迎撃されたとなれば仕方ない。


「しかし、空襲は十分に行えました。日本軍の航空戦力は壊滅したと言って良いでしょう」


 数回にもわたる空襲で日本の航空基地に打撃を与えたと偵察機の戦果報告と写真撮影で判定されていた。


「しかし、被害が大きいな」


 空母ランドルフとフランクリンそしてワスプが大破し後方へ下がった。

 沈没は免れたが酷い損傷で、本国へ帰し、ドック入りさせないと復帰出来そうにない。

 事実上、一個空母群が離脱した形だ。


「ミッドウェー級は能力を示しました。十分に補えるかと」


 今回の戦いでは、就役したばかりのミッドウェー級が参加していた。

 日本の大鳳級に対抗する為、建造されたアメリカ海軍初の装甲空母だ。

 排水量四万五〇〇〇トン、搭載機数一五〇機。

 ただし航空機は定数であり、現状は日本の神風対策に過搭載が行われ二〇〇機以上が乗せられていた。

 当初は議会の予算承認が三隻分しか得られなかったが、日本海軍の大鳳級の戦いぶりが伝えられると一転して承認。

 戦局の劣勢、多数の空母が失われた事に寄り追加で三隻が建造承認され、六隻が就役した。

 彼らは三隻ずつ、空母群を編成され、今回の戦いに参加していた。

 ミッドウェー級も日本機の攻撃を受け損傷し多数の艦載機を失った。

 だが、装甲板は貫かれず、短時間の修復で作戦行動可能にまで回復していた。

 艦載機は減ったが、後方の護衛空母から補充を受け、定数を満たしている。


「しかし空母が少なくなるのは頂けない」


 一度に発進出来る数が減少するのは痛い。

 航空打撃力は、一度に特定の場所へ航空機を集中させる事だ。

 発進拠点である空母の減少は打撃力の減少となる。

 また、発着艦を同時に出来ないこともあり、攻撃のシフトが制限される。

 大量の航空機を搭載出来るのはありがたいが、空母の数が少ないのは困る。


「増援が来ております」


「どこからだ」


「英国からです」


「英国か。少し心ともないが、いないよりマシだろう」


「だがあのモンスター、大和は大丈夫か」


「アイオワ級三隻とモンタナ級三隻が来ています。彼女たちなら大丈夫でしょう」


 モンタナ級は一六インチ砲戦艦の決定版として建造が行われていた。

 アイオワ級で問題になった高速と引きかえに妥協した防御力を増し、二八ノットと低下したが、攻防走の整った戦艦として完成する予定だった。

 しかしハワイ奇襲攻撃により航空機の威力が認識され、戦艦の建造を中止する決定が当時の大統領ルーズベルトより降った。

 だが、ソロモンでの消耗戦が流れを変えた。

 ガダルカナルを巡る戦いの中、新戦艦のワシントンとサウスダコタが喪失した。

 水雷戦隊の援護と二対四の劣勢だったとはいえ、二〇年以上昔に建造された金剛級戦艦に後れを取ったことは、衝撃的だった。

 更にノースカロライナも潜水艦により撃沈された。

 就役して五年以内の新戦艦だったが、日本脱退により発動したエスカレーター条項が適用されたとはいえワシントン条約の制限が掛かっており、性能に不安があった。

 結局、損失の補填として建造中止予定だったアイオワ級二隻を予定通り就役させた。

 だが、アイオワ級にも不安があった。特に日本の新戦艦に対抗出来るか未知数だった。

 ルーズベルト大統領も対抗手段がないことに懸念を抱き、日本海軍の新戦艦大和型に対抗する為、モンタナ級の建造中止を撤回。

 計画の五隻にプラス一隻が追加され合計六隻の建造を許可した。

 だがミッドウェー級を優先するため、あとの三隻の建造優先順位が下げられており、建造は遅れている。

 結果、モンタナ級三隻、モンタナ、オハイオ、メインが就役し沖縄戦に参加している。

 また大和を圧倒するため一八インチ砲を搭載した新型戦艦の建造計画も進んでおり、計画通りに建造されるか不明な状況だった。

 だが、乏しい戦艦戦力の中では有力な艦艇達であり、沖縄戦における日本戦艦への重要戦力であることは間違いない。


「念のために敵艦隊の迎撃計画と艦隊編成を立てておくようデヨ少将に命じてくれ。彼の元に戦艦を集結させるのだ」


「はい」


「呉と西日本への空襲は十分な成果を挙げたと判断する。計画通り、作戦をスケジュール通り遂行せよ。パットン将軍とバークナー将軍に作戦の発動を通達。アイスバーグ作戦を開始する」


 

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