最後の決戦準備

「第五航空艦隊司令長官を交代させられませんか?」

「他に誰がいるんだ?」


 塚原に後任を誰にするのか、と聞かれて佐久田は黙り込んだ。

 軍令部次長の大西中将は特攻の最右翼であり、とても任命出来ない。

 豊田大将も更迭されたばかりの上、強硬派のため使えない。

 台湾の第二航空艦隊の中澤中将は軍令部作戦部長経験もありまともだが、だからこそ本土から離れていて連絡が取りにくい、いざというとき、独自に判断して行動出来る人を配置しておきたかった。

 結局、現在の人事が最善だった。

 宇垣長官もかつての軍令部、マリアナ失陥以降特攻以外に道はないという考えに寄っており、止めるのは難しい。

 本土なら指導しやすいと思ったが、無理だった。

 他に航空戦を指揮出来る能力も階級も十分な人材が少なく宇垣中将以外に階級的に任命出来る人間がいないのだ。


「補充の方は大丈夫か?」

「敵の沖縄上陸があり次第、台湾の第二航空艦隊が支援。さらにフィリピンの一航空艦隊が第二航空艦隊へ。九州の第五航空艦隊へは関東の第三航空艦隊が応援に駆けつける手はずになっています」


 長い航続距離を誇る日本機の遠距離移動能力を生かして、敵が上陸した地点周辺へ機動出来る体制を佐久田は整えた。

 米軍は反撃を防ぐため事前に上陸地点周辺の航空拠点へ空襲を行う。

 わかりきったことなので、修復のための部隊も整えすぐに飛行場機能を回復出来るようにしてある。

 飛行場に施設部隊を多数編成し常に地下陣地と防空壕、掩体壕の整備拡張を行わせ空襲に備えさせると共に、空襲時は迅速に地上施設、駐機場や滑走路の穴を埋めるように手はずを整えている。 

 多少撃破されても、早急に飛行場を復旧して周辺から増援を受けて反撃出来るようにしてある。


「また第十航空艦隊から航空隊が移動する手はずになっています」


 全航空機の三分の一程は練習機だ。

 その中には実用機課程の航空機、第一線機を使用している航空隊もある。

 そうした航空隊を集め実戦部隊に仕立て上げたのが第十航空艦隊だ。

 本来なら錬成部隊であり、今後の戦力増強を考えるなら為に手を付けてはいけない。

 だが、今回の沖縄戦が最後の戦いであり、最早出し惜しみはしていられない。

 文字通り、最後の予備航空部隊として準備がなされていた。

 周到と言えるが、それだけ佐久田も追い詰められていたのだ。


「ですが無意味な攻撃や特攻で戦力を磨り潰されては作戦が成立しません」


 禁じ手まで使って準備はしていたが、目論見通りに動いてくれなくては成功はおぼつかない。

 狙いは敵上陸船団なのに、機動部隊を撃破しようと出撃されては無意味な犠牲が多くなる。


「作戦実施までは増援の航空隊は第五航空艦隊へは送りません。迎撃用の戦闘機は送りますが、重要な反撃戦力である攻撃機は敵が上陸するまで温存します」

「良いのか?」

「再び勝手に攻撃を行われて、戦力を磨り潰されるのは避けなければ、作戦時に戦力が無くなり、反撃出来ません」


 上陸当日に全力出撃、いやその前の事前攻撃で出撃させ、船団を攻撃せず、徒に戦力を失いかねない。

 万全の体制とはいかなくても、可能な限り戦力を掻き集め一点にぶつけなければ成果を上げられないのが航空作戦だ。

 手元にある機体をひたすら出撃させるだけでは損害が増えるだけ。

 消耗は避けなければ。


「分かった。第五航空艦隊への増援は行わない」

「お願いします。増援予定の航空戦隊は連合艦隊直轄にして、作戦発動時に指揮権を委譲するという方針で」

「そうしておいてくれ。で、米軍はやはり沖縄に来るか?」

「間違いないでしょう。今回の空襲は南の台湾から呉まで。空襲された場所の中心は沖縄です。沖縄周辺の航空基地を潰しにきました。確実に沖縄に来ます」

「そうか、しかし、気になる情報もあるな。アメリカが建造していたミッドウェー級を確認したという報告が入っているぞ」

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