橘花の弱点
「燃料! 弾薬の補給を急いでくれ!」
松山基地に戻るとすぐ菅野は整備員に命じた。
敵機はひっきりなしにやって来ており、一刻も早く飛び立って迎撃に向かいたかった。
「急いでくれ、もうすぐ連中が来ちまう」
空から轟音が響き渡る。
敵機が接近している証拠だった。
「補給完了!」
「よし菅野一番! 出撃する!」
整備員が離れたのを見て菅野はスロットルを全開にして滑走路へ駆けて行く。
「畜生! 加速が遅い!」
高速を出せるジェット機だが滑走路での加速が遅く、菅野は焦がれる。
「畜生! 上空でも戦闘が始まりやがった!」
白い航跡と黒い煙が松山基地上空に描かれる。
空戦が基地上空でも行われ始めたのだ。
「不味い! 敵機がこっちに来ていやがる」
松山基地を攻撃する任務なのだろう、敵機の一隊が低空で迫ってきている。
離陸するにもまだ十分な加速を得られていない。
「このままでは喰われる」
その時、地上から銃撃が放たれた。
地上に設置された対空機銃が火を噴き援護してくれる。
だが、敵機は怯むことなく菅野の方へ向かってくる。
「畜生! 度胸があるじゃねえか! そんだけ俺たちにビビっているのか!」
橘花の性能に恐れをなして地上で潰す、対空砲火をものともせずやって来ているのか。
「いいぜ! 勝負してやる!」
自分が飛び立つのが先か、連中がビビって攻撃を止めるのが先か、勝負だ。
だが、米軍機は度胸があった。
対空砲火をものともせず突進し、菅野に向かう。
「良い度胸だ」
敵機が自分を狙っているのが、針路から分かる。
先頭を走っているし自分の機体には隊長機を示すため、敵機を引き寄せるために胴体に黄色い輪っかを描いていて目立つ。
狙われるのは当然だ。
「畜生! 空で勝負がしたいぜ」
菅野は、敵機を見て叫んだ瞬間、敵機から炎が上がった。
「なっ」
突如胴体が破裂し、敵機は爆散した。
『離陸するときは気をつけろ』
林大尉が上空を通過しつつ無線で菅野を注意する。
「ありがとうございます林隊長」
橘花の弱点、離陸時の加速の悪さはドイツでの運用報告からも知られていた。
そこで、源田はドイツ空軍と同じように基地上空援護用の戦闘機隊を配置。
離陸を援護する事にして林率いる戦闘四〇三を松山基地の上空に上げさせた。
「さっさと離陸するんだ。どうもアメさんも新型を投入しているようだ」
「おもしれえ! 相手になってやる!」
菅野は喜び勇んで離陸していく。
「どこだ! 新型は!」
菅野が息巻いていると鴛淵大尉の通信が入った。
『こちら鴛淵一番! これまで見たことのない敵機を発見! グラマンより小さいし零戦並みに旋回する! 至急救援を!』
「零戦並みに旋回するだと、しかも鴛淵さんが苦戦するか。こいつは本物だ!」
兄として慕い苦戦の技量も優れる鴛淵大尉でさえ手こずる敵機に菅野は闘志を燃やした。
「こいつを撃破するぞ! 野郎共続け!」
「良いですね隊長! 喰ってやりましょう」
二番機の杉田もやる気だった。
ソロモンで生き残ったベテランだけに、闘志に溢れている。
エンジン音が気に入らないようだが、橘花の性能には満足しており、最大限に性能を発揮させたがっていた。
菅野達は地上の誘導に従って鴛淵大尉のいる空域にむかった。
「見つけたぞ!」
味方の飛行隊、戦闘七〇一が空戦しているのが見えた。
すぐに菅野は、機体を操り、急行する。
「さあ! 相手にやってやるぞアメ公!」
『菅野! 気をつけろ!』
だが耳に入ってきたのは鴛淵大尉の警告だった。
『アメ公は新型機を投入している! 厄介だぞ! 零戦並みの機動力と圧倒的な速力だ! 気をつけろ!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます