橘花
橘花は、ドイツ空軍のMe262シュワルベを元に開発されたジェット戦闘機だ。
ドイツ空軍の開発情報を得た日本はライセンス生産を要請。
受け入れられ、潜水艦によりエンジンと機体の実物、治具、設計図が持ち込まれた。
開発は難航したが最優先で進められ、半年前に実験機が初飛行に成功。
以降量産体制が行われ、今月に入ってようやく実戦機部隊が配備された。
その最初に配置されたのが菅野率いる新撰組、戦闘三〇一飛行隊だった。
空戦の腕も成績も良く、何より闘志に溢れ、真っ先に斬り込んでいく性格を買われた。
速度が従来より速いジェット戦闘機を操るには、思い切りの良さが必要なのだ。
「見えたぞ!」
すぐさま通信に知らされたとおりの空域へ向かうと敵の大編隊を見つけた。
「相変わらず凄い数だな」
百機以上の敵機を見つけ、菅野は興奮する。
「このまま正面の戦闘機を突っ切って、敵の後方の攻撃機へ強襲を掛ける。連中の戦闘機は援護しようと反転して編隊が乱れるはずだ。そこを攻撃する」
猪武者だが何も考えていない訳ではない。
敵機がどのように行動するか、理解して動いていた。
「どりゃっ!」
菅野はグラマンの編隊へ正面からツッコミ、そのまま突破した。
「よし! 敵の雷撃機と爆撃機の大編隊発見だ! 食らえ!」
両翼に装備したロケット弾を一斉に発射する。
投網のようにばらまかれたロケット弾は米軍機の編隊を包み込み、多くを撃破した。
「さて、グラマンのお相手をしてやるか」
菅野は笑みを浮かべると、押っ取り刀でやって来たグラマンに向かって旋回して突入する。
「勝負だグラマン!」
ネ二〇改のエンジン出力を使って、時速六五〇キロを引き出し、上昇しグラマンを引き離すと反転急降下。
追ってきたグラマンの背後に回る。
「貰った!」
レバーを握り機首の三〇ミリ機関砲二門が火を噴き、グラマンを撃つ。
グラマンはたちまち多数の大穴が空き、バラバラになって落ちた。
「流石三〇ミリだ! グラマン鉄工所もバラバラだ」
二〇ミリ四門の紫電改も良いが、口径が大きい三〇ミリはやはり威力が大きく一撃だ。
菅野は満足していると、後方から弾丸が飛んでくる。
「おっと」
グラマンの仲間が菅野の背後に回って機銃を撃ってきた。
「当たるかよ! てか、追いつけるか?」
菅野はスロットルを徐々に前に押し上げ、スピードを上げていく。
グラマンはみるみるうちに引き離され行き、置いて行かれる。
「さすが橘花だ! 我に追いつくグラマンなしだ!」
かつて偵察機のパイロットが言った台詞を菅野は言う。
「だが俺は戦闘機パイロットだ。連中を仕留めてやる!」
菅野は操縦桿を引き、無理矢理反転させるとグラマンを追いかける。
グラマンは急降下して逃げようとしたが、菅野も急降下で追いかけ追いつく。
「おりゃっ!」
再び機銃が火を噴き、グラマンを撃墜した。
「やったぜ。これならいくらでも落とせるな。さて、他は上手くやっているか」
菅野は周りを見るが、思ったより落としている機体が少なかった。
「あんまし落としていないな」
もとより混戦となると彼我の撃墜が少なくなる。
そして橘花のスピードが速すぎるため、敵機に追いついても狙いを定めるのが難しい。
減速出来れば良いが、ジェットエンジンで急激な出力操作はエンジン停止を引き起こすため厳禁。
訓練でもレシプロになれたパイロット達が何度もエンジンを停止させてしまっている。
「エンジン操作をあまりやらず、スピードを調整して撃墜出来る方法が必要だな」
暴れん坊だが理知的な菅野は橘花の欠点を見抜いた。
そして、もう一つの欠点が出てきた。
「ソロソロ燃料がなくなる。帰るぞ!」
ジェットエンジンは大量の燃料を消費するため、短時間、一時間ほどしか飛行出来ない。
すぐに基地に帰る必要があった。
「もっと飛べりゃ、数十機は落とせるんだがな」
菅野は愚痴りながらも松山基地へ戻った。
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