呉大空襲
六月一八日
七月に予定されている沖縄上陸――アイスバーグ作戦の為、事前空襲、沖縄周辺の反撃拠点破壊が行われる事になった。
レイモンド・スプルーアンス率いる第五艦隊の日本本土空襲、沖縄への反撃拠点となる西日本の軍事施設、南九州の航空基地と、日本海軍最大の泊地、柱島と呉への攻撃が行われた。
第二次マリアナ沖海戦から日が経っておらず、時期尚早、損害の復旧に努めるべきだという意見が米軍内では出されていた。
だが、日本軍の損害が大きいため、追撃の為にも攻撃するべき、また送れているスケジュールを取り戻すため、早期に沖縄を攻略する為にも攻撃が強行された。
スプルーアンスは内心、作戦に反対だったが命令とあらば仕方ない。
それに、十分な補充を受けており、作戦実施は不可能ではなかった。
新たな空母群を三個、それも二個は最新鋭のミッドウェー級を各三隻有する空母群であり、各艦定数で一四五機、日本機対策として増載したため各艦二〇〇機もの機体を乗せている。
それが二個空母群合計六隻。ミッドウェー級だけで合計一二〇〇機もの機体を乗せている。
海戦で離脱した空母群を抜いて、残った二個空母群と合わせれば合計で五個空母群、一三隻の大型空母と軽空母数隻に二五〇〇機前後の艦載機が乗っている。
しかも、後方には補充の為の機体を乗せた護衛空母群が控えている。
十分すぎる戦力であり、スプルーアンスも承諾するに足る状況だ。
そのため、第二次マリアナ沖海戦のあとウォッゼで短い休息と打ち合わせを終えるとすぐに出撃し、マリアナ方面経由で日本本土に迫った。
今回の空襲では今までとは違い、関東ではなく、沖縄に近い南九州と関西地方が標的となった。
初日である一八日は南九州の飛行場を中心に空襲が行われ多数の被害が出ていた。
翌一九日には室戸岬沖八〇キロまで接近し、航空隊を発進。
一部は関西方面へ向かったが、大半は日本海軍の本拠地であり一大拠点である呉へ向かった。
「偵察第四飛行隊索敵四号機が敵の大編隊を発見!」
松山基地の通信室に緊急電が入ると源田大佐は命じた。
「紫電改飛行隊は全隊発進! 橘花飛行隊は待機!」
先日の空襲で警戒配置に付いていた三四三航空隊、紫電改部隊が一斉に発動機を回し、出撃しようとしていた。
「よし! 出撃だ! 剣部隊初の地上迎撃だ! タップリ暴れろ!」
「おうっ!」
初の出撃命令に部隊の士気が上がる。
ハワイ空襲と、マリアナ奪回に艦載機型で参加していたが、元は局地戦闘機部隊、松山周辺で敵機を撃破するのが任務だ。
空母に乗り込むために更に選抜して送り込んでいたため、全員が参加したわけでもない。
しかも先のマリアナが負け戦だっただけに、心の中でくすぶっていた。
ここで敗戦を挽回し、全員で戦う機会を与えられ、士気と共に紫電改部隊は上がった。
鴛淵率いる七〇一飛行隊が上空へ飛び出して行き、敵機と接触するべく南へ向かう。
続いて林大尉率いる戦闘四〇三飛行隊が次々と上空へ出て行き基地上空に待機する。
「ええい! じれったいな!」
出撃していく様子を見た菅野は、苛立たしげに言う。
「ここは抑えろ菅野」
飛行長の志賀少佐が近寄り宥める。
「こいつは性能はピカイチだが足が短い。十分に近づけないと敵を捕捉出来ない。それに、離陸の時は足が遅い」
「分かっていますけど、置いていかれるみたいでイライラする」
「俺も同じ思いだ」
志賀は戦闘機パイロットであり、自ら飛び立ちたい。しかし、今は戦闘機パイロット達を纏める飛行長だ。
彼らが戦える様に、飛び立てるように地上での用務を行うのが任務だ。
きかん坊の菅野を宥めるのも志賀の役割だった。
「飛行長! 敵機一〇〇機以上接近中! 間もなく松山基地にやって参ります! 源田大佐より戦闘三〇一に出撃命令です」
「よし! 菅野行ってこい!」
「おうっ! 燃料ホース外せ!」
周りにいた整備員がホースを外し退避したのを確認すると、スロットルをゆっくりと前へ押し倒す。
両側からキィイイインンッッという今までにない音が響き渡る。
「よし! 戦闘三〇一飛行隊! 新撰組っ菅野一番! 出撃する!」
フットブレーキを外すと、矢のように急激に加速して行く。
滑走路に入ると更に加速が強まり、上昇していった。
「良いぜ! スゲえな噴式は!」
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